会員コラム

川口 洋美
氏名
川口 洋美
会社名
株式会社ツールドラック
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第16回顧客は経営者を映す鏡

師匠から口酸っぱく言われ続けたこの言葉が、いつも私の脳裏に呪文のように張り付いて離れない。
私は中小企業診断士として独立し、師匠のお誘いを受けて経営戦略研究会(百年企業研究会の旧組織)に入会させていただいた。そこで経営戦略および経営者としての心得を学び、その後、縁あって外国人向けのツアー事業を始めた。滋賀県内、それも琵琶湖の湖西エリア限定の、小さな日帰り旅がメインの商品だ。想定顧客層は欧米豪の外国人。英語だけのツアーで、日本人客は取らない。収益性だけを考えたら、これでは到底やっていけない。それを何とかして事業として成立させるのが、当面の目標だ。
悩ましい場面は度々あった。日本には圧倒的にアジア諸国からの来訪者が多く、彼らは滋賀の田舎なんぞに興味がない(今は若干状況が変わっているが)。お隣の京都が空前の賑わいを見せる中、知名度も低く地味な滋賀県に、自分が理想とする顧客に来て頂くためにどうすればよいか、、、問い合わせもまばらだった頃は、ターゲットシフトも考えるべきかと揺れ動くこともしばしばあった。
その度に、手元に蓄積された師匠語録を紐解いた。
「売上は追うな。コモディティは作るな。群れるな。ライバルも(今の)自分にもできない、オモロイことを考えろ。そして補助金には手を出すな。」
冒頭の言葉も含め、「けだし名言」といえる師匠語録は沢山あるが、どれも繰り返し読み返しては、迷う心を振り払ってきた。
その教えに実直に従ったお陰か、5年たった今では、世界各地から数多くの素晴らしいゲストを迎え、およそ観光地とは程遠い滋賀の田舎で過ごした一日が「今日が日本で一番の思い出となった」とまで言われるようになった。有難いことに、様々なアワードも頂いた。師匠語録を頑なに守ってきただけなのだが、今思えばこれは経営者としての金科玉条だったのだ。

実はこの一年、事業と家業の手伝い、そして子育てとであまりに多忙となり、現在、研究会は休会中だ。その間に研究会のあり方も変わり、「経営者を育てる」ことから「人として魅力的な人となる」ことに重きが置かれているようだ。
顧客の評価に常にさらされている身にあっては、事業の評価ならば甘んじて受け入れるが、それも含めた自分自身の生き方をもトータルで評価されるというのは、多くの人にとってはなかなか馴染みがないことだろうし、私も例外ではない。しかし、それもこの時代を生き抜くために必要なことだと言われるのであれば、強い心を持ってそれに挑もうではないか。
長いブランクの後のノートは、これまでの「師匠語録」とは違った言葉で埋められることになりそうだ。それが自分の腹に落ち、迷いのない行動や習慣となっている頃には、きっと予期せぬ自分との出会いが待ち受けていることだろう。

2019.12.06
Tour du lac 川口 洋美

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