読むドラマ(議事録)

相手を知ることは、自分を知ること。
年齢も業種も異なる経営者たちが、月に一度つどう目的はただ一つ。
決して一人ではたどり着けない月面「本当の自分」に降り立つため。
これはそんな経営者たちのリアルなやり取りから生まれたドラマ(議事録)です。
(禁:無断転載)

 第133回 百年企業研究会内容(2019/11/14)

 人生で「仕事」より優先すべきものとは 

「百年企業研究会のホームページを、大幅に変えました」
蒼天が挨拶を始めた。

「なぜ、新しく変えたのか。
理由は、10年10倍ムーンショット計画を立ち上げたからです。
この会の定員は20名。今14名です。あと6名空きがあります。
ぼくは100人にこのホームページを見てもらおうとは思っていません。
ただ、見た人には「この会に入りたい」と思ってもらいたい。そのための変更です」

蒼天は、一息つくと「黄金さん、ファイルを」と黄金を促した。
黄金は頷く。
「皆さんには、この議事録をプリントアウトして読んでいただきたいんです。
綴るファイルを人数分、黄金さんにお願いしました」

黄金は、議事録をファイリングするためのファイルを参加人数分持ってきているようだ。
蒼天が続ける。

「この例会が終わったあと、次の例会まで何もしなければ今日のことは忘れてしまう。
忘れてもらっては困るのです。
10年10倍の計画は、【皆さん一人一人のためのプラン】なんです」
そう言って、全員を見渡した。

「この中でいちばん若いのは、水島くんか。30代やな。
水島くんはまだ若いけど、いずれ皆さん「終末までのこと」を考えていかなければいけない。
ぼくの同年代は、気の毒な日々を送っています。
フェイスブックを見ても、盆栽とかお月さんなどの写真ばっかりです」

「わ、私って…気の毒?」

風景写真をよくアップしている銀天が、体をもぞもぞ動かした。一同笑う。
蒼天は意に介さない。

「『ほかに話題がない』のが問題なんです。花とか月のこと『以外』に話すことがない。
これがぼくの言う「かわいそうや」の意味です。
そうならないように、今からしっかり考えていかないといけない」

テーブルを離れてホワイトボードへ向かった。
勢いよく一本のラインをまっすぐ横に引き、縦にいくつか短い線を入れて区切りながら話す。
「24時間ありますやん。そこに『睡眠』があり、『仕事』があり、『日常』がある。
そのなかで、『自分の時間』をどれだけ使うか。それが大事です。
『自分の時間』は基本、毎日です。
いつも言っているように、人は忘れるものです。
だから、自分の時間をとることを【習慣にする】にすることが大事です」

蒼天は、『睡眠』とホワイトボードに書いた時間帯をぐるぐると黒ペンで囲んだ。

「一番よくないのは、睡眠時間を削って仕事する藤崎さんみたいなタイプやな。
今ごろ入院先でよう寝てると思いますけど」

一同、蒼天の軽口に笑いながらも、今痛みを抱えているであろう藤崎に思いをはせているようだった。
藤崎は日頃の無理がたたったのか、膝で再入院しており今日は欠席だった。

「大事なのは、毎日規則正しい生活をすることです。
いつが1日の起点か。
朝5時とか、起きる時間ではありません。就寝時間が起点です。
特別な人は別ですよ。しかし基本は、就寝時間から始めましょう。
ぼくの場合は、22時から22時30分までには寝て、4時45分には起きます。
これで6時間は眠れる。
眠れるとどうなるか? 『思考の深さ』が変わります。
翌日は朝から元気いっぱいですわ」

蒼天は、同じテーブルの列に座った黄金に質問した。
「黄金さん。睡眠時間は?」

黄金「バラバラですわ」

蒼天「その原因は?」

黄金「ボランティアや、仕事や、なんやかんやその時の状況で…」

「銀行と同じに考えればいいんです。銀行はなにがあろうが15時で終わるやろ。」
蒼天はきっぱり言った。

「もちろん状況によっては相手もいるでしょうが、銀行も同じ。
つまり、時間をこちらで決めればいいんです」

蒼天がさきほどの優先順位の話に戻す。
ホワイトボードには『自分の時間』とある。
仕事、睡眠時間、日常、さまざまな時間の区切りのなかで、それが光る。

「何のためにこういうことを言うのか。自分のためなんです。
『自分の時間』が、1番の優先順位です。

2番は、『睡眠時間』です。
3番は、『仕事』です。
何が言いたいかというと、規則正しい生活をしましょうって話です。
毎日決められた時間に、決められた場所で、決まったことをする。
本を読むとか、日記を書くとか。
頭がいちばん回転するのは、朝です。
ぼくは昔、酒を飲みながら遅くまで考えるのが好きでしたが、今はやめました。

10年10倍ムーンショット計画の前提条件として、【自己改革をはかること】です。

知識が深まる。自分の成長を実感する。
自分の将来がだんだんイメージできるようになる。
なんでもそうですが、止まっているものを動かすには大きなエネルギーが大きくいります。
しかし動いているものには、エネルギーがそうかからない。
動いているのを習慣化していくと……同じエネルギー量でも1年、2年と、スピードが変わってきます。
加速します。
まず第一に、生活習慣を変えましょう。

人間は、なかなか変えることができません。
でも【習慣】が、身体を変えていきます。

僕たちは、これからが長いんです。
ぼくの知り合いは、長い長い長い長い一日を過ごしている。
何もしなければ、退屈な時代がだらだら過ぎていくんです。
自分でコントロールできない人間になってしまう。
だから今のうち、自分のために、『自分の時間』を優先すること。
自分のためです」

「黄金さん、一番危惧しているのはあなただ。あなたは忙しすぎる」

話に頷いている黄金に向かって、蒼天が率直に言った。

黄金が素直に認める。
「そのとおりです」

蒼天「金(仕事)と自分の時間と、どっちが大事や?」

黄金「言うほど儲かってませんのや」

黄金が苦笑いしながら話し始める。
「ここ(例会)を終わって出るときは、よし、変えようと思う。
でも事務所に帰ると仕事がどっさりあって、それを処理しているあいだに忘れてしまう」

蒼天がアドバイスする。
「A・B・Cでランキングします。
Aはいちばん大事なことなので、とことんやります。
Cはいつまで経っても手につかないで、先送りやろ。
それやったら、いっそCは捨てたら良いんや。
白石さんがそうや。自分の時間を大切にしているからこそ、大事なお客さんとしか仕事しない。
しょうもない得意先とは仕事しない。
そして、規則正しい生活をすること。
毎日、自分の時間をとること」

「質問、いいですか」
黄金が椅子の背もたれから体を離して、蒼天に尋ねた。

「いろんなところで話をきいてメモしたり、いい本読んだりすると、メモがどんどんたまっていきますやん。それがたまっていくと役に立つことがどこかに書いてあっても、メモがどんどん溜まって、いざというとき役立たない。
それをどうしたら……?」

「自分にとって必要かどうか、の判断ができないからそうなるんや」

「う〜ん…」

「人のために人生を使わないことや」

「わかってるんやけど……」

「それでも、いろいろ言ってくるひとは付き合わんでいい。
これは!という人とだけ付き合えばいい。
情報(メモ)も、人も、仕事も、同じや」

「う〜ん、まあ、そうなんですけど……」

「黄金さん。あなたは中学生相手にボランティアもして、いろんな人に喜んでもらってるけどな。
【人に喜んでもらうまえに、自分を喜ばせよう】。
僕はこう言っちゃなんですが、仕事を選んでます。
つまらない仕事はしてない。
求められるところ全部から注文とってたらいかん。
人のキャパには限りがあるんや。
資料がどっさりきても、全部見ない。
試しにそのままにして、半年後みてごらんなさい。影響が出るか出ないか」

黄金「そうですね……」

紺野が、テーブルの向かい側から黄金に提案する。

「黄金さんはもう経験上で、「それ」がいるか・いらないか、わかるでしょう?
そのときそのときは必要だと思っても、いらないものってありますよね。
だから、それはもういいんじゃないですか?
今の段階で「必要じゃないもの」は捨てるのはどうでしょう?」

紺野に続けて、朱田が黄金に言う。
「黄金さん、『ええ人』をやめられんのでしょう?」

黄金が、朱田のほうを見た。朱田が続ける。
「私も50代にはいるまでは「キツイ」とか「黒い」とか言われるのが嫌やったけど、あるときから開き直りました。
もう、人にどう思われてもいい。親切な人と思われなくてもいい。おかしいことはおかしいと言ってもいいやん、と」

「僕もそう思います」
紺野が同意する。

黄金が、はーっと濃いため息をついた。それから

「僕も黒いで」と黄金が朱田に返してから、今度は銀天に向き直る。

「あの(百年企業研究会のサイトに掲載された)銀天さんのコラムを読んだんです。星詠みの」

銀天がびっくりし、それから嬉しそうな表情になった。

「ありがとうございます。
星詠み、いいですよ。
だって、他人は、自分にとって都合のいいことしか言わないじゃないですか。
自分がどう感じるかを主観的に話したりするものです。
でも、星詠みとか、西洋占星術は、客観性があるんです。
「はたから見た自分」がどう見えるか、何を大切にしたらいいのか、とか、を『星の視点』で教えてくれるんです。
別に、「星読みでこんな風に出たから、それが正しい」って言いたいわけじゃなくて・・・」

黄金が頷きながら、銀天の話を聞いている。
銀天は黄金を見ながら話を続ける。

「星詠みは、100くらいある『自分を知る方法』のうちの一つです。
で、自分で「あ、そうか!」と気づくことができたら、それでいい。
人は人。自分は自分。です。
私も最近、そんな風にやっと思えるようになってきました」


「そうやね」黄金が同意した。それでも顔は晴れない。

「それで・・・15分でいいから『自分の時間』をつくろう、と書いてある。本当にそのとおりやと思うけど・・・」

蒼天が言う。
「まだ成功事例がないから、ピンときてないんや。
本読んで、メモして、インプットをなんぼしても、使わなければ塩漬けや」

朱田が言う。
「自分が「社会貢献!」と思うことをやるよりいっそ、「自分がやりたいことをやるのが社会貢献」なのかもしれないと思います」

紺野も『自分の時間』について自分ごとに置き換えて言った。
「僕も、15分なにもしない、というか、瞑想? 自分を振り返る、をやってみようと思います。

墨田も頷いて、対話に加わる。
「僕もやってみたんです。瞑想。でも、意外と難しい。
15分の間で、違うことを考えてしまう、仕事のことを考えてしまう」

蒼天が言う。
「なにより大事なのは、仕事の量を減らしましょう。それや」

「そうですね」黄金が答えると、蒼天が黄金を見据えた。
「口だけやないか? また帰ったら、仕事するんやない?」

紫垣がタイピングの手を止めて、提案した。

「あの。『環境の力』を使うのはどうでしょうか。
私が学んだ心理学や行動心理学のコミュニティでは、『意志の力は弱いもの』が前提にあります。
なかなかできない自分を「意思が弱い」と責めるより、「他力という環境の力」を使って、15分なにかをするとか、習慣づけていくんです。
他力って例えば、フェイスブックのグループの場とか他者の目のあるところ、です。
そこで、「今から15分瞑想します」って宣言する。
書いてアップしたら誰かの目に触れるから、やんないとな、と思う。これが環境の力です。
自分の行動を見てもらうんです。でも、できなくても自分を責める必要はなくて。ただの実験として、気楽に」

墨田が、なるほど、と頷いた。

黄金が朱田を見ておもむろに言った。

「朱田さん落語やってますやろ、人を笑わせるのはすごいなと、ぼく落語あこがれてるんです」

落語の話を振られた朱田は笑って、話し出した。
「ええですね。黄金さん、やってみたらいいんやないですか。
黄金さんの新しい切り口かもしれません。
ちなみに落語って、女の人はよく笑いますけど、男の人は笑いませんね。
「なんぼのもんや」と腕組みしてかかってくる。
そこを私はイジり倒しますけどね。
どうしたんですか、なんか奥さんとあったんですか、って。(皆笑う)
そうやって、会場をやわらかくして・・・あ、でもこの話はまたの機会に」

黄金に「落語」。新しいキーワードが生まれた。

「そしたら、今度、何をどうやって話すとか打合せを・・・」

「いやいや、だからつまらないって言われますんよ」その場でやろう、と言う案だ。

紺野「黄金さん、入門したら良いんやないですか? 朱田さんに」

蒼天「それやったら僕も聴きにいきますわ」

朱田がニッコリ笑った。
「わかりました。黄金文具店さんのよさを引き出しますわ」

銀天「いじりたおしてね」
黄金「・・・楽しそうやな」

紺野「入門決定で」

卓球台の上に座って落語やったらええやん。
講座名「卓球」ですよ。
さまざまなアイデアが飛び出す。

黄金が言った。
「僕ね、人をニコニコってさせたいんです」

蒼天が笑った。
「そこでな、黄金さんの社員と『一緒に笑う』のが大事や。
朱田さん、この人をかきまわしたってや」

「わかりました」と朱田。

「じゃあ準備してきます」と意欲的な黄金に、蒼天がピシャリと言った。

「そんなことに準備してたらあかん。無謀に行動するんや。
今までみたいに準備して・・・段取りして・・・、ってやってたら型どおりのもんしかできん」

黄金が目を輝かせている。
「寄席をうちでやる、か。・・・面白そうやな。実は憧れてたんや」

今回「水島を知る」予定だったのが、この時点ですでに1時間以上経っていた。

水島が言う。
「えーと・・・今日はもう、そのまま黄金さんの回で良いんじゃないですか?」

そうはいかない。
いったん休憩をはさんで、水島を深く知る時間にシフトすることにした。

 

水島さんを深く知る

休憩後、再び着席した全員に、水島がA4ホチキス留めの資料(全16枚)を配った。
水島の今までについて書かれたものが、文章にまとめられている。
冒頭にある一文はこうだ。

『それほど山も谷もない人生なので退屈かもしれないが、僕を指名したのが運の尽き、ということで、諦めてお付き合い願いたい。』

水島が蒼天に尋ねた。
「配ったもの(内容)を、話しますか?」

資料に目を落としながら、蒼天が答える。
「いや。過去はざっくり話してもらって。ポイントを伝えて。過去よりこれからのことを話そう」

わかりました、と水島は答え、資料を手に話し始めた。
家族構成、両親のことなど。

「〜〜〜。「安定してるから公務員になれ」とずっと言われてたけど嫌やなと。
警察官には絶対ならないと思ってました。
真似できんな、という感じ。

僕は手を出された覚えはないですけど、兄はよく殴られてました。
母は優しくて、厳しい事は言わない天使みたいな人です。
僕は、兄の影響が大きかった。
例えば兄は、悪さをして怒られて僕に当たる、って感じです。
兄に対して、「面白い」と「嫌だな」の両方の気持ちがあった。
一緒に仕事をしたりもしましたが、いろんな感情がありますね。
僕はこう見えて、子供の頃は神童と呼ばれたりして・・・
僕が言ったんじゃないですよ? 頭がよかったんです。
あんまり勉強した感じはないけど、兄の反面教師で「アレやったら怒られるんだな」というのがわかって同じことをやらないようにしたりとか。
で、そんなに勉強できるなら進学したら?と。
塾に行き、どうせなら、ええ中学に行ったら?と言われてA大学に。
小学5年から勉強始めました。
友達とも遊ばず、勉強ばっかりしてましたね。
テレビは見るな30分だけだ、しかもNHKだけで、ゲームはもちろんダメ、な家庭。
代わりに、本はたくさん読んでました。
童話とか児童書とか読んでましたね。
僕の病気の話だと、アトピーとかアレルギー性鼻炎とか、ずっときつかったですね。
肌とか、見た目がしんどかったですね。
親もしんどかったと思います。
眠れないと言う僕の身体を、夜中にかいてくれたりして・・・
その痒さとかで、人前にでたくなくなって内向的になっていったのかも。
運動したら汗をかいて痒くなるので、運動したくなくて。
やっぱり内向的になりますね。
そんな、病気との戦いもありました。
あと、親が厳しくてずっと坊主ですね。
いっとき伸ばしましたけど、今は禿げだしたんでまだ坊主です。(笑)
途中で引っ越したので、地元にぜんぜん友達がいないですね。
それは残念だなと思います。
小学の時は頭が良かったんですけど、中学にあがるとみんな出来るやつばっかりで、劣等感がすくすく育ちましたね〜。
無理してイイトコにいきすぎたんや、と。
いいことと、よくないこと、いろいろです。

兄からは一時期、「殺さんと殺される」と思うくらいにやられてましたね。
それを誰かに言うとまたやられる、負のスパイラルでした。
兄が九州の大学にいったので、そこでやっと、ホッとしました。
お土産でファミコンをもらって、殺意はアッサリ解消しましたけど(一同笑う)
兄も小さい弟をいじめるより、違う楽しみをきっと見つけたんでしょう。

このころにパソコンとの出会いがありました。
古いパソコンを親戚にもらったのをきっかけに、パソコンを使って遊んでいました。
パソコンに興味をもったのはそれがきっかけですね。
あとは、テレビを見せてもらえなかったので、ラジオっ子になりましたね。

・・・高校は、まとまった記憶がないですね。
暗黒時代だったのか、記憶にフタをしているというか。
高校には行ってたけど引きこもり、みたいな高校生活でしたね。
パソコンを親に買ってもらって、ほんとはマック(マッキントッシュ)が欲しかったんですが親の反対にあい、買ってもらったのが富士通で、それ以来ウィンドウズです。
パソコンで何をしてたかと言うと小説をサイトで読んだり、自分でも書いて投稿したりしてました。
高校三年のとき、知り合いのお父さんから頼まれてデータ入力をやったのが、パソコン使って初めてお金をもらった経験です。
A大学では商学部にいきました。
文学部は潰しが効かなそう、理系じゃないから工学部は無理、そんな消去法でしたね。
でも入ってみたら結構楽しかったです。
でも当時は、自分で経営しようとは全然思ってませんでした。
当時はほとんど本を読んでるか寝てるか、パソコンしてるかしてました。
友だちもあんまりいなくて、仲のいい3,4人とつるんでる感じでした。

社会人になって引っ越しして一人で生活して、自炊するようになりました。
パソコン関係の仕事なので性には合っていたんですが、残業多くて厳しい環境でしたね。
毎日終電で帰るか、徹夜か、午前3時でタクシーで帰ったりとかなりハードでした。
先輩も2名うつになって、仕事こなくなったりとか。
あと僕、人としゃべるのがキライだったので、人と話さなくてもいい仕事だと思っていたんですけど誤算でした。
でも、上司とか先輩、後輩、客先とか、電話で話さないといけない環境にいるうちに、抵抗感が減っていきましたね。
今でも人見知りですけど。
で、2歳年下の今の奥さんと職場で知り合って、前は敬語使ってくれてたんですけど、結婚した今はもう全然。
僕への尊敬の念も全然ないなという感じ(笑)。

そんな感じで三年半くらい激務をこなしてたんですが、ちょうど兄が独立することになったんですね。
このままずっとここにいるのかなぁと迷って、「いや、面白くないな」と思って退職。
兄に誘われて起業しました。
25歳の時に、兄弟で仕事を始めたことになります。
妻に言ったら「えんちゃう?」と(笑)。どうでもいいのか器が大きいのか・・・

最初は反応が悪かったんですが、次第に「ホームページつくれるよね?」と仕事もはいってきて、お金もないまま、なんだかんだ楽しい生活をしてました。
で、オフィスも借りてやったんですが・・・兄とよくけんかしてぶつかって、5〜6年やって辞めました。
僕が勉強会や交流会とかに行って仕事をもらい、一日中仕事をしていて、かたや兄は定時で帰る。なんだかな、と。
僕の作業量は増えるのに給料は上がらなくて、月に7万円くらい。
いろいろあって疲れて、辞めて独立することにして、自宅で始めることにしました。
それを奥さんに言ったら、また「えんちゃう?」と・・・
月の報酬が7万円の報酬よりはいいだろうと思ったのか、謎です(笑)。

それで2011年に独立ですね。
最初の3年は自宅で仕事してたんですが、自宅でずっと仕事をしているとよくないなと思ってオフィスをかまえました。
家から出たことでスタッフを受け入れる体制も整ったんですけど、人を雇う能力があるのか?と迷いもありました。
で、「どうせ失敗するなら早く失敗したほうがいい」アドバイスを受けてそうした。
スタッフとの衝突とか退社とかいろいろありましたね。実際いい経験になりました。

そして2014年ごろに蒼天先生と出会って、戦略ゼミに参加し、経営勉強会にはいって、今にいたります。

今のスタッフは女性が2名。面談もしているしコミュニケーションもしてるけど、本当は何を考えているか、がわからないので、いつ「辞めます」と言われるかわからない不安はありますね。
あと、今は移転を考え中です。
移転についても2人の意見をとりいれようとしています。
とはいえ、「大枠は決めてくださいね、予算もあるので」言われて、なんだか温度差があるなぁと思った。

今年は、「振り幅を広げる」としました。
今の取り組みは5時に起きて、一緒に娘と勉強する、というのをやってます。
娘がいるのでなんとか起きれてますね。
娘と一緒に交換日記、といっても5〜6行書いてるくらいですけど、
朝起きるようになるまでは、一緒にいる時間がまったくなかったんですね。
すれ違いで。
なので、今は交換日記でなにをしているのかを知る感じ。
ありがたいことにまだ「キライ」と言われてないので。

あと、キャンプが趣味ですね。自然と戯れる感じがいいですね。
あと包丁研ぎ。
でも研ぎすぎて切れすぎて怖い、と奥さんから言われました。
あまり僕の頑張りが奥さんに伝わってない感じですね。
こんな感じです」


最後の16ページ目を繰り終わった水島が、顔を上げた。

一瞬の間のあと、蒼天が言った。
「一番聞きたいことを、聞けてへんやんか」

水島「はい」

蒼天「これから、なにを、したいんや」

水島「なにも思い浮かばないんです」

蒼天「考えないから、思い浮かばないんや」

毎日考えないと思い浮かばない、と蒼天が頭を振った。

「水島くん。君、このままずるずるいくと、5年先、はやければ3年先に「しまった!」と思うことになるわ。もうすぐ40代やろ?
ぼくらの40代って、相当責任のある仕事をさせてもらってたわ。
それをしていない今の生活のスタンスは、まずいわ。
何より、ベースになる考えがない。それが問題や。
毎日何を考えて生活してるんや。
何を考えて生きているのか、それが水島くんの話をきいていて、感じられない。
事務所を移転するとか社員を大事にするとかよりも、もっと本質的に大事なことがあるやろ」

水島「はい・・・」

蒼天「やることを決めたら、行動が変わるはずやろ。来月の宿題や。一ヶ月ある」

水島「はい・・・」

蒼天「順風満帆やと思うわ。今よりも家賃が高いところでやっていけそうか?」

水島「ですね」

蒼天「その順風満帆でやっていけている根拠はなんや?
ホームページ屋さんは、世の中にたくさんいる。
何で飯をくっていくか、よりも、水島くんが『どんな生き方』をしたいんや?
日々の仕事に流されて、未来につながらないのが心配やないか?」

水島「心配ですね」

蒼天「一日のいつ、考えてる?」

水島「朝起きて勉強してるときですね」

蒼天「本を読んだりした内容を、残してる?」

水島「残してないですね」

蒼天「それがあかん。残さないから堂々巡りや。
本を読むことよりも、書くことのほうが勉強になる。
今日、何をやったかとか、今、何を考えているかとか。
そして、未来を書いていかないと。
『なにをしたいか』を書いていかないと。
一つを深めて書いていくんや。そうしたら、思いがけない正解に出合える」

水島「では、今日あったことを、一つだけ?」

蒼天「そうや。一つだけを掘り下げて書く。そうするうちに未来志向で未来に向かっていくんや」
「あのう」銀天が手を挙げて、蒼天に質問した。

「私は、『今日のタイトル』を日記につけようと思って書いてます。うちにいっぱいあるマスキングテープを使いたいから、本日のタイトルをマスキングテープに書いてるんですけど」

紺野・黄金が「ほお」と声をあげる。
なるほど、日記にタイトルをつけるのか、と感心しているようだ。
紺野はノートに何か書きつけている。

銀天が続ける。
「でもこれが、果たして未来志向になるのか? それが疑問です」

蒼天が答える。
「つねに未来志向の癖をつけるんです」

銀天が、静かに返す。
「うーん、書いてるうちに、これ、自己満足じゃないか?となってしまって。
明るい未来というイメージが、日記にないというか」

銀天が話し終わるのを待って、蒼天が口を開いた。

「僕は、一年前の日記を見てその日をはじめるんやけど、一年前の日記が幼稚過ぎてびっくりする。
なんでこんなに幼稚なことを書いてるんだ?!と、愕然とする。

で、書いているうちに新しい発想がでて、書き始めとぜんぜん関係ない流れになったりする。
なんでもいいんです。
例えば朝、読んだ本の内容を忘れないように、書いている。
学習したことを書いている。それが成長につながる。

打ち明けてしまうとな、
【ノートの右ページ:出来事を書く】
【ノートの左ページ:ワンテーマをひとつ、書いていく】
こんな風に僕は書いています。

すると、蓄積で、学習したことが自分の生活にはいっていく、学んだことをすぐに活用できるようになる。
だからこそ『積み上げて書いていこう』と言っているんです。
試しに、自分の中で日記に取り上げた『テーマ』を半年分、集計してみるといい」

銀天「えー! それは・・・はずかしい」

蒼天「ふだん自分が考えていることが炙りだされてくるからな。
そしてそれを、生涯の仕事にできる。
仕事とは、『自分がいちばんやりたいことをやればいい』でしょう?
でも実際は、『今やってること』=『やりたいこと』と、思いたい、という人が多いです。
それが、書きつづけることで出てくるんや」

蒼天の、日記に込める声に力がこもる。

「自分のやりたいことなんて、すぐに見つかるもんやない。
毎日、振り返って、なにを得たのか、なにに関心を得たのか。
そこで一番自分のやりたいことがみつかったら、10年10倍なんてもんやない。
実際のところ、ぼくは3年10倍と思ってる。みんなと違ってぼくは年齢が年齢やからね。
皆さんはどうですか? おそらく油断してませんか」

図星だったのか、紺野が「あいたたた・・・」と天井を仰いだ。

蒼天が、自分のバッグからスヌーピーのノートを取り出した。
「かわいい!」と周囲から声が上がる。

蒼天がニッコリ笑う。
「僕、スヌーピー好きやから」

日記をパラパラをめくって、テーブルの面々に見せた。
そこには、思いつくままに書き記したような勢いのある字が走っている。

「こんな感じでええんや。
今日一番印象に残ったこと、ひとつだけでいい。
それについて書くんや」

「あの」朱田が水島の資料から顔を上げる。
「水島さんの話、あまり「えーっ!」という過去はなかったな、というのが正直なところでした」
「はい」と、水島が笑う。

続けて茶間が手を挙げ、水島に質問した。
「対外的なことはお兄さん、システム的なことは水島さん、だったみたいですが。
どうやって仕事が入ってくるんですか?
途切れずに仕事が入ってくるって、それは水島さんの強みだとおもうんですけど」

水島が答える。
「特別なことはしてないんですけど・・・交流会や勉強会での知り合いや、紹介の紹介、ですね。あとはもう、基本的なことをしっかりやってます」

「基本的なこと?」

「言われたことをしっかりやらない、とか途中でばっくれるとか、途中で飛ぶ、つまりいなくなったりとか、そういう業者さんもいるんです」

「えーっ!」驚きの声があちこちからあがる。

水島「まあ、いろいろ状況があるみたいですが、僕はやることはきっちりやるので」

茶間「それで信頼を得てきてるんですね」

水島「そうなんでしょうね。やっぱりちゃんとやることですかね。
スケジュールが変わってもそれに対応して、ちゃんとやって。
相手の人が変わっても、その変わった人からまた新しい仕事をもらう感じですね。
信頼してもらってる感じですかね。
あとは、とっつきやすさもあるんですかね。
だいたい一回会って話すと、お仕事もらいます。
それはたぶん、押しつけないから。相手の言うことをいったん全部受け入れる。
『うちのスタイルはこれしかしません』とかがないんです」

茶間「お仕事が途切れないのはすごいなぁと思いました」

朱田「そんな水島さんが、この研究会にはいろうとした最大の理由はなんですか?」

「えーっと、なし崩し的に・・・」と笑う水島に、
蒼天が補足する。
「僕やない。桜庭さんや。水島くんに『あんた行きなさい』と言ったんや」

一同笑う。

水島が笑う。
「こういう場が、他にないんですよね。勉強会はあるけど。
つまり、自分のなかを掘り下げていく。「あきまへん!」と言われる場がない。
奥さんにはアカンアカンてしょっちゅう言われるけど、次に繋がるアカンじゃなくて感情的なアカンだから」

朱田「だから、自分のレベルあげたいと」

水島「はい。そうですね」

蒼天「僕の本心は、人を雇ってほしくないんや。
自分でできる分岐点をみきわめて、あとは『自分の時間』をつくってほしいんや。
どんどん仕事がきて、人を雇って、っていうそのスタイルを、変えなアカン」

そう言うと蒼天は、水島に向き直って、一言添える。
「僕は、彼に注文がくるのは、彼の人柄やと思う」

黄金「うん。彼の人柄が、作風やと思う」

蒼天「そこで問題なのが、尖ったものがでてきいひんことや。
これや!がでてこない・・・」

蒼天の話の途中で、会議室の電話が鳴った。タイムオーバーだ。
時計の針は17時を指していた。

司会の墨田が姿勢を正す。
「・・・ということで、ありがとうございました!」

蒼天「来月は、先月の藤崎さんの続きから半分、今月の水島さんの半分や」

墨田がテーブルの上を片付けながら、水島に言った。
「僕は、水島さんの話にめっちゃくちゃ共感する・・・
パソコンとかのマニアックなところとか。
けっきょく、人柄で仕事をもらっているところ、とか。
なんていうか『尖ってないところ』が、共感しまくりで・・・」

水島が笑った。
「うーん、僕たち、一緒の課題の匂いがしますね」

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