相手を知ることは、自分を知ること。
年齢も業種も異なる経営者たちが、月に一度つどう目的はただ一つ。
決して一人ではたどり着けない月面「本当の自分」に降り立つため。
これはそんな経営者たちのリアルなやり取りから生まれたドラマ(議事録)です。
(禁:無断転載)
「水島さんを深く知る。第二弾ですね」
司会の白石が始めると、蒼天が先に口火を切った。
「過去のことは、もうええ」
視線は水島を向いている。蒼天は続ける。
「水島くん、前回の発表で過去のことは話したな。
印象としては「プレイ」が多い。遊び。
仕事の面でしたいことは(レポートに)書いてあったけど身がない印象。
身の詰まった内容をお願いします」
「はい」水島が話し始める。
「日記を書き続けて感じるのは『ワクワクしていない』ってことですね。
日記が、それに気づくきっかけになりました。
効率的にどう仕事をこなすか、という意識が、よくないのだろうなと思います。
それで、ワクワクすることって何だろう?と思って挙げてみました。
ワクワクといえば・・・
お客さんに喜んでもらう、とか、ウチでつくったサイトで売り上げが上がったとか、あと僕自身、新しい技術を手に入れるのが楽しいです。
でも、能動的になにかを手に入れようとしているかというと疑問ですね。
「探そう!」と思って机でウンウンしていても意味がないから、動くしかない。
今までは、何か誘われたらすぐに断るのだけど、これからはアンテナを張って参加しようと思います。
あと・・・具体的には、ブログをしようと思います。
日記を2ヶ月書いてきて、文を書くのが苦手ではないな、って。
そして、今まで僕は情報発信をしてなかったなと思って。
お客さんには「ブログ書いてね」と言っておきながら自分は忙しいからと書かないのはどうかな、と。
なので、自ら書いて発信して、どうしたらアクセスが増えるか、成果が出るか。
僕自身が実験台として、来年からは「ものを書く」をしようと思ってます。
あと・・・僕は、今まで「お金のために」仕事として依頼されてサイトをつくってきたのですが、「自分のため、自分がやりたいもののために」サイトとして形にするということも考えています。
いままで培ってきたことから面白いもの、役に立つものを。
マネタイズは考えず「こんなんオモロイんちゃう?」というものをやってみようかと。
その2つが、今、僕のなかであります」
水島の斜め前に座っていた紺野が、口を開いた。
「私のお友達は、シーズンになると毎日、松茸のことを書いて発信してるんですね。
『私は松茸の情報発信の日本一だ』と自負しています。参考情報までに」
水島が頷く。
「そうですね。僕の友人でも情報発信している人はいますね」
「・・・非常に不満」
蒼天がうなるように言った。
皆の視線が集まる中、蒼天が話し始める。
「あなたの未来について、なにも触れられていない。
情報発信は目先のことでしょう。
未来こういうことをやりたい、こういうビジネスをしたい、がないと、【未来の話】にならへん」
水島が口を開く。
「依頼されて仕事をする、が今までのフローだったけど、お金に関係なくできるようになればと・・・」
「そういうことやない。あなたの事業のコンセプトを教えて下さい。
あのね、以前の僕のセミナーをあなたが受けたとき、あなた答えていましたよ、事業コンセプト。
「当社は『かかりつけの工務店』です」。例えば、これがコンセプトや。
今やっている事業がどのようなコンセプトなのか本人がしっかり持っていなければ、それはただのなりゆきや。
事業コンセプトをベースに、未来をどう展開するかや。
それが僕のいちばん聴きたいことや」
水島は黙っている。
話し出さない様子を見て、蒼天は続ける。
「どんな人生を描きたいんや。
水島くん、もうすぐ40やろ。まだ20そこそこやったらいいけどな。
しかも、最近、立派な事務所に移転したやないか。
ハードばかり固めても、中身がこんなんやったらどうする?」
蒼天はそう言うと、「議事録、便利やな」とつぶやきながら、手にしたファイルを開いてプリントされた先月の「読むドラマ(ストーリー議事録)」をパラパラめくった。
「ほら。今、話してること、前回の宿題やったやろ。」
顔を上げて水島パートの議事録の部分を読み上げ始めた。
(なにがしたいんや。もうすぐ40やろ・・・)
「あのぅ、朗読やめてもらえませんか」
水島が苦笑いして蒼天の読み上げを制し、一同、笑う。
「事業コンセプトは、『お客さんのためにていねいにやっていこう』くらいしかなく
『かかりつけ工務店』みたいなパチッとしたものはないです。
依頼されてやる、ですね。それで・・・」
「前回もそれを話したやろ。また、繰り返しや」
蒼天が水島の言葉をさえぎる。
流れかけた沈黙の空気感を変えるように、司会の白石が身を乗り出して言った。
「みなさん、提案したいんですが」
研究会に集まった13人全員の視線が、白石に集まる。
「これ、進まないので、もう一ヶ月宿題にして。次いきましょう」
皆が笑う。場がふっと和む。
白石がテーブルの奥に座った藤崎へ、手のひらを向けた。
「で、藤崎さん。前回の続きしましょう」
とっさに話を振られた藤崎が「うえぇ」と顔を歪ませて苦笑いし
「水島さん、もうちょっと粘れませんか?」
と飛んできたボールを返した。
即座に投げ返され、水島も困ったように笑う。
ボールが宙に浮く。
蒼天が、話す。
「・・・『ワクワクすることって、なんやろ?』
そういう目先の発想じゃないんや。
もっと遠いところを見ていかないと。
ブログ書くとか、発信するとか、そんなんどうでもいいんや。
目先のフェイスブックを毎日書いていても、見る人が見たら終わり。
流れていってしまう。
でも、同じ発信するにしても、例えば「一つのこと」をずっと書いていたら意味がでてくる。
ワンテーマで書き続けたら、見に来る人はずっと見に来る。
ま、僕は友だち少ないから見に来る人はぼちぼちだけどな。(一同笑う)
大事なのは、書いたらそれで終わり、ではなく、書き留めたそれを、自分の人生に活かすためにはどうするかを考え続けることや。
自分に課題を与えるために、発信するのはいい。
そういう意味での発信なら、いいんや」
「そういう意味での発信です!」
水島が大きな声で言うと、皆が笑った。
笑いがおさまると、水島が説明し始める。
「僕、今まで書くという行為自体をしてなかったんです。
【自分を掘り下げる】ということをしてみたい。
ブログもずっと書いていたらネタが尽きるし、そうなるとネタを探すために自分で動いていかないとならないし」
「あの。水島さんの話ね。しょうもない。
賢いことしか言ってない」
朱田が口を開いた。
「もしかしたら水島さんには、もっとエキセントリックなものがあるかもしれないし、もっとオタッキーなものがあるかもしれないけど、現状で、なにも見えてこないんですよ。
しかもここ(研究会)では一番年下だから、変なことを言ったら怒られる、みたいな感じですやん。賢いことしか言わない感じ」
水島が体を揺らして「うーん」とうなった。
沈黙が流れる。
「誰か、アドバイスしてみて」
蒼天が他からの意見を促すと、「はい」と、銀天が手を挙げた。
「私、朱田さんの言ってることすごくわかるんです。
それと、今まで水島さんの話を聞いていて感じたのは『自分自身の内面に対してあまり興味ない』んじゃないかな、と。
水島さんって、自分のことを好きなんかな、と。
自分が自分自身に興味ないから、なんか、深いところがあまりでてこないのかな?って」
銀天の指摘に、水島が、ポツリと言った。
「興味ないかどうかわからないけど、あまり好きではない・・・」
蒼天
「まあ、誰でも自分が一番大事だと思うけど」
緑山
「・・・なんか、水島さんって、優等生的な感じなんですよね」
朱田
「うん。イイコちゃん、というか」
蒼天
「それでもコイツ、モテてるで」
水島
「だっ誰にモテてるんですか!」
白石
「ここにいる皆さん、事業主であるからには、『みな発信者』でしょ。
発信者として、自分のお客さんをワクワクさせないといけない。
水島さんの場合は、〇〇(移転前の小さな事務所)ではじまって、そこから移転して、ステップアップは確実にしてる。
だから、このまま得意分野をつきつめていったら、おのずと見えてくるんじゃないかな」
水島
「はい。書こうかなと思っているブログや自社サービスも『つきつめる』の一貫ですね。
どれもWEBまわりのことだし、つきつめるの一貫かな、と」
藤崎
「そこに、テーマはないんですか?」
水島
「テーマは、自分の仕事にかかわること、ですね。
自分の仕事がどうやったらもっとお客さんに貢献できるか・・・・
って。あーね、こういうのが、ダメなんですよね(笑)」
誰かの指摘より先回りして、自らツッコミを入れる水島に、皆が笑った。
白石が、テーブルの向かいに座る蒼天に向かって話し出した。
「(蒼天)先生の『一日一言』で100日書き続けられていたとき、僕フェイスブックでずっと見てたんですけど、「先生、次は何書くんや?」とワクワクしてたんですよね。
「100日目、いったい何を書いてくるんやろう」と」
蒼天が頷く。
「書き始めて60回目から、どう締めるかは考えていましたね。
とにかく自分のために課題を課してやっていました」
朱田
「水島さん、やってみたいこと、なんかあります?」
水島
「ソロキャンプとか」
白石
「こっそり、一人用のテントを買ったりとかね。
こないだの、墨田さんの『ラグビー』みたいな発想ね。
そういうの、いいんちゃいます?
たとえば来月に、みんな一人ずつ3つずつアイデアだしてきて、集まった30の中からやってみるとか」
「考えません。考えついても(水島くんに)言いません」
蒼天のピシャリとした物言いに、皆が笑った。
「自分で考えてほしいんです。
白石くんの『かぼちゃ』も一緒や。自分で考えたから価値がある」
水島
「オフィスを改築したのが、僕にとってはワクワク・・・」
朱田
「しょうもない」
水島
「みんなが『ワクワクするなぁ』と思ってもらえるようなことを・・・」
蒼天
「今、日記書いてるやろ。
日記書くときに、『自分は何をやりたいんや』から書き出してみて」
水島が、そうですね・・・と小さく答える。
藤崎が水島にたずねた。
「水島さんが「ブログを書きたい」のは、書いたものを誰かに喜んでもらいたいから書く感じですか?
みんなに喜んでもらいたいものを書くような。
水島が、頷く。藤崎が続ける。
「例えば、その内容がみんなに「つまらん!」と思われても書く感じですか?」
水島が首を振る。
「それは・・・凹みます」
「僕の考えをみて喜んでもらいたいのが、基本です」
紫垣が、タイピングの手を止めて水島に尋ねた。
「水島さんの娘さんへ向けてブログを書くというのはどうでしょう。
例えば、このご時世いつどうなるかわからないから、いつ会えなくなってもいいように娘さんに遺書をのこすように、自分の思いを書く。
読者は『みんな』じゃなくて、『娘さんだけ』のイメージで、みんなにそれを読んでもらう。
水島は、う〜ん、と唸っている。
藤崎
「それで(周りに)引かれたらと思うと・・・?」
水島
「うん、いやですね。みんなに好かれたいですね・・・」
蒼天
「僕は嫌われるの平気や。それでも自分の意志を通す。
『はい、キライで結構です!』って。
しょうもない意見に左右されない」
朱田が水島に言う。
「あのね、なにか貫こうとしたら反論されるもんです。
すべての人に好かれようったって無理や。そんなん、しょうもない」
銀天
「嫌われるのが、水島さんは怖いんですね〜。
『嫌われる勇気』って本、読んだことあります?」
水島
「そういう本があるのは知ってます」
銀天
「他人の期待に答えるために生きたら、それは自分の人生ではなく『他人の人生』を行きている。
他者からの「いいね!」を求めず、自分が自分に「いいね!」すればいい。
・・・というのが、こんこんと書かれている本ですけど」
水島
「はい。読んでみます」
藤崎が、ふとよぎった疑問を口にした。
「水島さんって、仕事でお客さんに嫌われても自分を主張することは出来るんですか?」
「それはできます。じゃないと仕事がいつまでも完成しないので」
水島は、ここではキッパリと返した。
藤崎
「そっか。仕事だからできるんだ」
水島
「ですね。仕事じゃないときは、できない。
人に嫌われるの、怖いです」
蒼天が、息をついて言った。
「これは、時間かかるわ」
紺野が、自身を振り返るようなそぶりで言った。
「俺も・・・10年前くらいまで嫌われたくないと思ってた。
でも、いいや!となったかな。今は嫌われてもいいやと思える」
水島
「それ、なにかきっかけあったんですか?」
紺野が笑った。
「働きすぎて嫌になった!(笑)
もういい、と思えるようになったのは、それがきっかけかな」
水島がポツリと言う。
「自分もそう思えるようになれるかな・・・」
蒼天
「どう思われてもいいやないか。烏合の衆に嫌われたって構わへん」
朱田
「水島さんの、確固たるなにかがないから、怖いんかな」
「まずは人を好き嫌いで無理やりでも分けてみて、『好かれている50人』からとことん好かれようとする、っていうのは?」
白石が提案する。
その隣で、朱田が頷く。
「ええ人でも嫌われてる人はいる。
どんなに、ちゃーんとしてても、ケチつけてくる人はいるもんです」
白石も頷く。
「そう。で、それに対応していると自分がブレてくる」
蒼天
「『みんなに好かれる』ということは・・・なにかが起こると『みんなに嫌われる』ってことや」
水島が、少しハッとしたような表情になる。
蒼天は続ける。
「僕は26年間、会社をやってきて、変えなかったことが一つだけある。
僕のモットーは「迎合せず妥協せず直球勝負」
それは独立前のサラリーマンのころからやってきた。
なぜそれができたかというと、まあ、気質っちゅうもんもあるけど、人の言いなりになるのは嫌やったからや」
蒼天の向かい側のテーブルで、何かを思い出したように銀天が笑った。
蒼天も、ふっと笑う。
「ものすごく、要領の悪い人生や」
水島が言う。
「要領よくいこうとすると、ダメなんですね」
蒼天は、水島を見た。
「あなたと真逆や」
白石が、別の視点から提案する。
「水島さん。なら、いっそ『みんなにバッチこーい!』って、とことん全員に好かれようとしてみたら?
『人生で、俺は悪口を言われたことがない!』ってくらい」
その発想に水島が「え〜っ」と、苦笑いした。
「たぶんメンタル崩れる・・・」
蒼天
「ちなみに、先日の事務所の移転のとき、奥さんは手伝いに来た?」
水島
「来てないです」
蒼天
「そうやろ。それが気になる。
まったく関知しない。関わりが薄い」
水島
「どうせ言っても聞かないやろ、みたいなところがあるかもしれません」
紫垣
「私が奥さんの立場だったら、自分のやりたいこと自体に、否定するか肯定するかに関わらず、何も言わないことで、自分のこと踏み込ませないことをさみしいなと個人的に感じました」
水島
「ずっとそうやってきているから・・・」
朱田
「私は逆に、信用しているから自由にしているのかな、と。
口出しはしないけど、それは信用している証拠で。
私自身、旦那とは仕事に関して分野が違うので、私は踏み込まれたくない」
白石
「奥さんに言うときに、言い切りなのか、クエスチョンなのかは気になるかな」
水島
「決めてますね。それで報告する感じです」
白石
「やめとき、って言われたら?」
水島
「やめないですね。決めたことに対しては。
だから相手も、無駄やろと思ってると思います。
どこ?場所は?くらいは訊いてきますけど」
蒼天が、水島に言った。
「水島くんに言いたいことがある。ここじゃなくて。一対一で言いますわ」
水島が弱った笑顔で肩をすくめる。
「僕の事務所で、怒られるのをウチのスタッフに見られながら・・・?」
「それがかえっていいのかも。カッコ悪いところを見せる」
白石が笑い、そして、そろそろ、といった感じで場を一度締めた。
「ちょっとまた、持ち越しということで」
(10分休憩)
休憩後、皆の手元にA4の紙が一枚ずつ配られた。
藤崎自身の考える「理想の時間割」が書かれている。
藤崎が、前方の真ん中の椅子に座って話し出す。
「前回、膝の調子がよくなくてお休みしてました。
で、今回は、10分くらいで差し戻しされる覚悟で・・・」
苦笑いする。
「昨日もほぼ徹夜して。それはそれでいいんですが。
前回の議事録を改めて読み返してみて、時間割表をつくってみました。
自分の時間をつくらないとあきまへんで、ということで!」
一同、笑う。
月曜日は朝5時に起きて、自分の時間を作って〜・・・ここには理想を書いているんですが。
今の問題は、曜日が進むにつれて、帰りが遅くなっていくことなんですよね。
だからこの状態で、自分の時間をとると、どんどん仕事がずれこんできてしまう。
だから、決めなあきまへんで、と。
ここで、宣言をしようと。この時間割できっちりやると。これが一つ。
もう一つは、日頃、自分の時間がない原因。
TO DOが多すぎる。
やらないといけないことをやっていき、やらないといけないものをピックアップしようとして、いつも山のようにやることがたまっていく。
これが二番めです。
今、日記を書いているのですけど、書くのは課題の解決のことばかり、なんですよね。
前回の議事録を読んでいて、今までわかっていないことがありました。
心に刺さることを書くと。
書いたことがなかったな、と。
僕の場合はビジョンとか、方向性をはっきりさせたいのに、はっきりしないということ。
心に刺さること、感動すること、世界観とかを日記をとおして創り、進んでいく道を見つけていくことだ、と議事録を読んでいて思いました。
でも、現時点ではそれがないので、今日は、非常に弱い・・・。
・・・水島さん! なんで3時間、もたせてくれなかったんですか」
「すみません。無理でした」
苦笑いしながら八つ当たりした藤崎に、水島も笑った。
朱田
「しょうもない質問ですけど・・・晩ごはん、いつ食べはりますの?」
藤崎
「夕方6時くらいです。僕、お昼ほとんど食べないので」
朱田
「お家じゃ食べない?」「はい」
蒼天
「昔の企業戦士ですな」
白石
「あの〜。時間割について、女性に訊きたいのですが。
家事しながらも皆さん、仕事してるでしょ。どう割り振ってしてはるんですか。
男は仕事しかない」
そうそう! と、他の男性たちからも声が上がった。
茶間が手を挙げた。
「私は引き算なんです。専業主婦なんで、主人や子どもの時間の都合で、逆算で動きます。何時に出かけるので何時までに何を終わらせる、って逆算で。
はっきり言って、なにも面白くないです!」
白石
「えっ、オチはそこ!?」
一同笑う。
銀天
「うちの家族見てると、なんで男の人はこんなに時間の使い方が下手なんやろう?と思います。
そのあいだに私は晩御飯の用意して、打ち合わせして、仕事して、ってどんどん動く。
段取り、です。
バレッド・ジャーナルって本を読んで、「やらないといけないものは、やるもんや」と。
やらないといけないものに基づいて、一年、半年、3ヶ月、1ヶ月、1日、とやることを振っていく。いま子供のことがあるので、学校にいっているので。
白石
「その、やることっていうのは、自分の夢を叶えるための?」
銀天
「いや、それをやらないと忘れちゃうから。生活がまわらないから。
例えば、紫垣さんが来年1月にウチに遊びに来るとします。だからそのためにこの店を予約する。イベントの例であげれば、そんな感じ」
朱田
「仕事から日常に戻らないといけない時、切り替えをどうしてるかですよね?」
白石
「そうです」
朱田
「そうしないとまわらないからです。
もうちょっと仕事したいけど、生活がまわらないから切り替えるしかない。
社員さんに、自分ができないことはまわす、とか。
おばあちゃんにごはん作りをお願いして、助けてもらって、お礼伝えて。
これを実現するためには、段取りです」
藤崎が言う。
「段取りベタなんですよね。
無理やり仕事してきて、実際やれてきてしまったから、こうなっちゃった。
社員に頼めばしてもらえるだろうけど、このままでいいのか、と」
蒼天
「藤崎さんの一番の問題は、隘路(あいろ)やわ」
藤崎が頷く。
「ですね・・・そこがちゃんと動かないと。ボトルネックになっている。
テストを誰でもできるようにする。標準化しておく。狭い道も広い道もあるから。
社員も仕事をしやすくなるので、そこにメスをいれないとなかなか進まない」
白石が、藤崎の配ったA4の紙を見ながら言った。
「この時間割を達成するには、仕事はしない。製造業務はしない。社長業に徹する。
それを考えないといけないんじゃないかな。
今、何時間ねてはります?」
「4時間。1時間のときもあります」
そう答える藤崎に「それは骨も折るわ」と、蒼天。
水島が尋ねた。
「確か、藤崎さんのところにはマネージャーの方がいますよね。
マネージャーが管理しないんですか?」
藤崎が渋い表情をする。
「プロジェクトマネジメントができない会社で、ずっとやらないままやってきたんですよね。できるようにしないといけない。
4名のマネージャーがいるので、私の代わりにやってもらうように育てないといけない。
納期が重なってきて、一個に集中してやりたいけど、そうはできないからちょっとずつやる。でもそれは効率悪いんですよね」
蒼天
「一般論で言うと、それは社員にさせること。
社長はプロジェクトを運営していく全体をみて管理していくのが大事や。
前から言ってるけど、白石さんの発想が大事です。
自社はどれだけ売ったら収支トントンか? をしっかりおさえておいて、それを超える部分。つまり、どうでもいいお客さんは受けない。大事なお客さんは別としてね。
手間ひまのかかることはしないことや。
利益率が高くても。
そういう思い切った顧客の線引きが必要だと思います。
その決断をしないと、難しいかもしれませんな」
白石
「この時間割でいこうと思うなら、構造から変えないと」
蒼天
「受注が多すぎるんですわ」
藤崎
「ですね・・・6ヶ月のプロジェクトでも、結局、最後の1ヶ月でがーっとやったりチカラ技で。スケジュールがないから、どんどん詰まっちゃう」
蒼天
「短納期のもんばっかり受けたらいいんですよ」
「そんなのあるわけないじゃないですかぁぁ〜〜!」
藤崎が弱りきった声を出した。
白石が、ふと、自分を振り返り始める。
「僕、最近、日記の精度が落ちてきてるんです。
仕事も、寝る時間も、いろいろ、精度が落ちてる。
11月はいろいろ自分が見つめられていたんだけど、12月はあまりまとまってない。
ピンときていない。スランプなのかなぁ」
「日記に、スランプってあるんですか?」
菖蒲が白石に訊く。
「なんかなぁ・・・一日の達成感が、ない」
白石はそう答え、ここ最近を振り返り出した。
「先月(例会を)休んだ理由が、僕が持っている資格を持っている社員がいなくて検査が進まないから、やむなく休んだんですよね。
で、ふだん僕は一時間だけ、勉強にあてるようにしてるんですけど・・・
なんか全体に、上手いことまわさないといけない、と思っている。
会社的には円滑なんだけど、もういっかい、元の凸凹にしたろうかと。
凸凹にして、再びまた、丸くする」
白石の話を聞いた藤崎が、話し始める。
「白石さん。自分のやってきた仕事に対して、もう一つ、やりたいことに気づき始めたんじゃないかな。
会社はうまくいってて、これ以上しなくてよくなった。
だから、それまでの状態とは違っていくのかもしれない。
『今までを続ける』じゃなくて、もう次のステージなのかな。
考え方をゼロにして」
朱田
「私も、一緒です。なんか、飽きてくる。
これって、次のステージに行けってことなんですかね」
藤崎
「もう、次のステージに行くタイミングやないですか?
僕は6時すぎに会社に入り、6時にでるんですけど、それを変えたい」
蒼天
「皆さんには10年10倍、といつも言うてますけど、実のところ、僕は3年10倍にしようとしています。なぜなら皆さんより時間がないから。
10年後は80代やからな。そのためにいろいろ思いを巡らせています。
僕は、丸善にいきます。本のジャンルを問わず3時間くらいいます。
それで、10冊くらい本をピックアップする。ぜんぜん違うジャンルで。
グーッとと吸い付かれる本があれば、それを買って読み始めると自分にない発想がでる。
いつもと違うアクションができる。
人間、新しい発想がでる」
朱田
「白石さん。水島さんと同じこと言われてますよ」
蒼天
「仕事も大事だけど、仕事より大事なものがある。
仕事も大事だけど、新しい発想は、外からやってくる。
そのためにはスペースを作らないといけない。空いたスペースにいろんなものが集まってくる。
一回、思い切って環境を変えるか?」
白石
「会社辞めて、会社員になるとか(笑)」
蒼天
「案外それもいいかもしれんなぁ・・・。
みんな、道を誤ってる。
就職するときに深く物事を考えていないから、就いた仕事が果たして自分に合っているかもわからないままです。
例えば今、藤崎さんはITの仕事をしているけど、それが向いているかはわからない。
社員もいるし、今さら辞められんというのもあるやろ」
藤崎が反論する。
「でも、面白いからやっているのもあります」
蒼天
「みんなね、適したものを知っているかどうか、わからない。
結局のところ、白石さんがなにか見つけたら、生涯現役の仕事ができると思います。
いま、その分岐点にいるんじゃないですか?」
朱田
「若いときはなんでもやってみよう!とかもあるけど。
今はちょっと違って、したくないことはしない」
藤崎が、白石に向かって言う。
「いっそ社長業を辞めて、会長になったほうが面白いものができるかも」
白石が笑う。
「7人くらいの会社で、会長だって」
藤崎
「会長じゃなくてもいいけど」
白石
「人に雇われたくない!でやってきたけど、あえて人に雇われるのも・・・」
蒼天
「ありやな。みんな社会人になったら就職するやろ。
それが向いているかどうかを確かめられる人は少ない。
とはいえ、収入も必要だから辞められない」
紺野
「まずは船に2週間、乗ろう」
朱田
「退屈そう」
蒼天
「退屈するんや。それがいい」
水島
「自社製品を作るのはどうですか?」
一拍おいて、蒼天が全員を見渡して言った。
「藤崎さんのあとは、白石さんをクリアしよう。次の例会は、白石さんやな。
例えば、茶間さんが新しいお茶で事業したいというのは、新しい道でいいと思う。
意外と彼女は、粘り強いと思う。
銀天さんは、パンというハードがあるからやりやすいかもしれない。
菖蒲さんは、ソフトだから、自信があるだろう。
少なくとも、不安はないでしょう?」
菖蒲の「老後の不安が・・・」と言う言葉に一同笑う。
蒼天
「みんなその壁にぶちあたるんですわ。それに気づくか気づかないか。
気づかない人はそのまま、定年退職や。
僕はね、ライティングゼミにいって本当によかった。
いままでぜんぜん使っていなかった脳が動き出した。
そうや。白石さん、ライティングゼミ受けはったらどうです?
面白いでっせ」
藤崎が周囲に問いかける。
「どう思います?」
「いいと思います」と、墨田が答える。
蒼天が「12月コースからはじめたらいい。4ヶ月間」と言ったあたりで、白石が苦笑いした。
「藤崎さん(を深く知る)から、すごく話がそれてしまってるけど・・・」
どことなく場がまとまらない雰囲気の中、それまでずっと黙っていた黄金が体を前に傾けた。
それから、ハッキリした口調で、藤崎に問いかけた。
「ほんとに、今の生活を変えたいと思ってる? 僕は疑問ですね」
藤崎が、苦笑する。
「良い質問、しますね」
黄金は声のトーンを変えない。
「心の底から変えないと、と思ってる? 藤崎さんのゴールは、なんなん?」
「ゴール?」
「こっち(ゴール)に行こうと思うから、変えようとするわけでしょ?
自分の人生」
藤崎が、黄金の質問に答える。
「ある程度の人生を達成した人が、次を探している。
でも僕はそのレベルじゃない」
黄金
「決めないと変わらないよ」
藤崎
「なんとなくのビジョンはあっても、なんとなくで。
どんな仕事でも自信をもって出来ない。でもしたいと思ってる」
黄金
「そうなりたい次の自分を、いつまでに見つけようと思ってます?」
朱田
「黄金さんも、見つけたいと思ってますか?」
黄金
「社員を育てないと思うのは当たり前で」
藤崎
「そうですよ、それは当たり前。
行く道をさだめるのが、見つかっていないから。
当面のですよ。マイルストーンです。生きる目的じゃない。
世のため人のためになりたいけど、何をもってかは、わからない。
生産管理、食肉管理というところでやっているけど、自分のやっていることで人のためになっているのか、社会が必要とする人になるかのビジョンが、ない」
朱田
「日常が忙しすぎて、考える暇がないんですよ」
黄金
「ここまでずっとみんなの話を聞いてて、違和感があった。
いまのままやったら、藤崎さん。変われないよ」
蒼天
「今の仕事をイヤイヤやっている経営者は、おそらくいないと思う。
けれども、凸凹がなくなって何の模様もなくボーリングのボールみたいな、いきつくところにいって、そこに何かあるかと。
経営者として責任上やらなければならなくてやっているけど、今のそれが一番適しているとは限らない。だからそれを見つけよう、と言ってるの。
それは藤崎さんも一緒」
沈黙が一瞬流れる。
「人生は、直線コースではない。
人間は成長するから、その都度、目標も変わる。
本来はそういうものやから。
常に、それは変わるものやから。
当面は藤崎さんがこれ(紙に書いた時間割)をやるのはいい。
では、それをいつからやるのか。
藤崎さんはこれ(理想の時間割)、いつまでにやりますのや
どんな方法でやりますのや?
白石
「1月からまず1週間やってみて、ダメだったらまた考え直すのは?」
藤崎
「それだと、ありがたい」
白石
「このままだといつか、意識失いますよ」
菖蒲が口を開いた。
「私、母が倒れて仕事は増えるわ介護は増えるわ、大変だったんです。
家事もやらなきゃ、介護もしなきゃ、で大変だった。
でも、ある時、『家事も仕事』と考えたら、アウトソースしたらいい、と。
いろんなサービスが充実していて、これからの仕事はアウトソースやな、と。
新しいことをしたら仕事が増えるけど、自分のできることは限られているからです。
うちの会社はシンクタンクで、いろいろなプロジェクトを一斉管理しないといけない。
マネージャーがいないとまわらない。
で、お金かかるけど専門の人をつれてきて、やったら、あっという間に片付いたんです。
それでいい感じの流れができて、仕事全体の分量の調節ができている。
『自分に代わる人材』がいないときに、思い切って外から優秀な人を見つけて差し込んだら、その流れが変わるかもしれません」
藤崎が、頷いた。
「はい。プロジェクトマネジメント専門会社に入ってもらって、変えていこうとしています。
もともとないものをしようとしてもしかたないので」
水島が、先ほどの黄金の発言に対して言った。
「黄金さん、『変わる、変わる』といって変わらない藤崎さんの、本気度を知りたかったのかな、と。僕もそうなんで・・・」
黄金が即座に「ちゃうねん」と返す。
「あ、違うんですか」と水島がガックリした。
黄金が言う。
「藤崎さんの、情熱はいいんや。想いはね。
社員のためにあれやこれやしたいという、その思いは持ち続けてほしい。
パッションだけは、変えてほしくない。
蒼天先生にこれを言うと怒られるんで、いっつも戦うんだけど、僕はやっぱり会社の規模を大きくしたい。(藤崎、頷く)
でな、それは、これを、実行できてからや」
そうキッパリ言った黄金は、藤崎の『理想の時間割』が書かれた紙を指差した。
一瞬の間ののち、白石が、そうっと話す。
「・・・ちょっと、もう、時間なので」
誰からともなく、会議室内にため息のようなものが漏れた。
場の空気に一区切りをつけるように、司会の白石が言った。
「1月は、藤崎さんの続きで」
藤崎が声を上げる。
「え〜っ、まだ、やるんですか?」
一同、そうですが何か?と言う空気だ。
「・・・わかりました。私は、まず、これ(時間割)をできているかの報告をやります」
白石が頷く。
「はい。で、そのあとは、横やりもいれたってのもあるので、白石祭りで。
それがはやく終わったら、短冊いきます」
白石祭り、の言葉に、場の空気がすこし和らぐ。
蒼天が隣に向かって
「緑山さん、何かありますか?」と尋ねる。
緑山が、今日のやり取りを思い出すように言った。
「話を聞いていて・・・会社として成熟している時期にある人と、ビジネスの成長途中でイチから動いている創業期にある人とは、それぞれ違うのかな、と思いながら聞いていました」
蒼天はひとつ頷き「墨田くんは?」と促すと、墨田は柔らかく笑った。
「うーん、水島さんがいつも、ちょっと前の僕を見ているような気がします」