読むドラマ(議事録)

相手を知ることは、自分を知ること。
年齢も業種も異なる経営者たちが、月に一度つどう目的はただ一つ。
決して一人ではたどり着けない月面「本当の自分」に降り立つため。
これはそんな経営者たちのリアルなやり取りから生まれたドラマ(議事録)です。

 第136回 百年企業研究会内容(2020/02/13)

<THE THOUSAND KYOTOホテル、短冊発表の前に>

京都駅にほど近い、豪華で真新しいホテルの一室。
緑山の司会による2月の例会は、墨田の朗読から始まった。

原稿を手に墨田が話し始める。
「経緯をちょっと説明しますと、私は、日創研、日本創造研究所の研修を受けていまして、勉強を兼ねて行っていました。
そこは日本全国の方々が勉強しています。
そこで『ありがとう卓越経営大賞』というものが3部門、年に一回行われていて、研修の一環で提出しました。
応募者は250〜300くらいあったらしいです。
それで、たまたま私が書いた文章が、3部門のうちの1つに入選させていただきました。
その表彰と日程が重なって1月の例会はお休みしたんですね。
それで・・・今日、朗読することになりました」

「推薦文」手にした原稿に目を落とし、墨田が読み上げる。

「本道君はわが社において現在は現場管理職として、毎日工事現場の進捗管理、原価管理、品質管理、工程管理を担当してくれています。
また、新規案件の受付から打合せ、契約、最後の集金まで、一連の業務をすべて一人でできるマルチタスク能力の高い社員です。
彼は建設系の専門学校を卒業し、当社に大工職人見習いとして入社しました。
先輩職人に育てられ、大工として一人前になり、ずっと職人として会社を支えてきてくれましたが、二年ほど前に新しいステージで仕事をするのも楽しいのではないかと、現場管理職を勧め、担ってもらうことになりました。
大工職人は、特に住宅建設においては全体的視点を要するため、そこで鍛えられた能力は現場管理に向いていることもあります。
しかし、何より彼の真面目で誠実な性格は、仕事の仕上がりとそのプロセスに現れ、早く美しくできることから、お客様からの評価と粗利益が高くなりました。
慣れない間なので、失敗することも多いですが、それに対するアドバイスを素直に聞き、自分にできることを探し、どんどん改善しているところは、私自身が初めて仕事に就いたときのフレッシュな気持ちを思い起こさせてくれて、楽しい気持ちになります。
彼は毎日、車で一時間の道のりを通って出社してくれています。
そして、新しい管理職についてからは、誰にも言いませんが、朝の三時、四時から業務の調整をしています。わが社はグーグルカレンダー共有していて、彼がスケジュールを変更すると、その通知が届き、その時間で彼の努力がわかったのです。
彼と面談すると、現場管理職をやってみて「楽しい」と言います。
毎日成長しているのがわかり、一緒に仕事ができることが私としてもとてもうれしいです。
彼のおかげで、会社の今期の業績は過去最高となっています。人の成長を間近で見られることと、ともに充実した仕事をできる彼の努力や人間性に最大の謝意を送ります。
ありがとう!」

ここで墨田はひと呼吸おき「伝えたいメッセージ」を読み上げた。

「いつも遠い道のりを通い、朝早くから夜遅くまで頑張っていただき、本当にありがとうございます。
大工職の時よりも、ずっと充実した表情や言動に、社長としてそういうステージを用意できたことの自信と、一緒に働ける喜びをいただいています。
この二年、めちゃめちゃ忙しかったですね。
これからは私と共に少し先のイメージをつくって、忙しいだけではなく、ワクワクするような仕事の時間を一緒に過ごしていきましょう。
本道君にはとても期待しています。」

原稿から視線を上げ照れくさそうに笑う墨田に、会場から拍手が起こった。

「・・・ちょっと、パンチがなかったな」とすげない蒼天の感想に一同笑う。
蒼天も笑っている。

司会の緑山が尋ねた。「日創研にはどれくらい?」

墨田「ここ3年くらい、とびとびで」

紺野「いやぁ〜、僕はさすが選ばれるだけの文章やなぁと思いました!」

蒼天が感想を述べる。
「パンチがなかったというのはね。なぜ本道くん、彼がそんなにモチベーションがあがっているのか。その内面に触れてもらえれば更によかった。
それがなかったな。
ぼくが会った、あの彼でしょう? イケメンの」

墨田が笑う。「僕よりはイケメンですね」

蒼天もニッコリ笑う。
「しかしなによりね、あなたが頑張ってずっと(日創研に)通っていたというのが立派。
しかも、誰にも言わないで。
すごく忙しかった時期に行っていた、そこが素晴らしい。
これからも頑張ってください」

桜庭が墨田に感想を伝える。
「私も・・・どうやって会社を宣伝したらいいかなと思って、ビジネスコンテストに応募したりして。コンテストの内容や表彰される事例から、選ばれる理由ってこういうことかな?と思ったりしました。プレゼンテーション能力は求められるかもしれないかな、とか。
ある程度ふるいにかけられたらどれも似てくると思うので、それも魅せ方かな、とか。
あの、天狼院で磨いたんですか?」

墨田「ちょっとした表現力でどれくらい人の心に刺さるか、など考えることはありますね」

桜庭のとなりで、着物姿の朱田が感想を伝える。
「私、本道さんをよく知っているからか、彼の「墨田イズム」や忠誠心や、墨田さんの本道さんを育てたいという気持ちとか、そのどちらも見ているので、文章が素直にはいってきました。
奇をてらったところはないし、性格的にパンチはないけれど、着実にやってはるなと思ったし、なにより墨田さんが思いをかけているのがよくわかりました。
彼の年齢、あまり変わらないですよね?」

墨田「2つ下です」
朱田「いい感じですよね。社長と社員の関係でも」

朱田の言葉に、墨田は微笑んだ。

緑山が司会進行の音頭をとる。
「墨田さん、ありがとうございました。
では、本日のメインイベント、短冊の発表ということで!
どなたからいきましょうか・・・ふふふ、『私と目が合った人』順で」

(毎年2月、3月の例会は本年(今年は2020年)の所信を短冊にまとめ発表することになっている。その始まりである)

「え〜!」会場が薄くざわついた。

緑山
「では、一人何分とかあえて決めずに、進めていきたいと思います。
そうですね。そのへん理解されているだろう銀河さんから」

「はーい」ためらうふうでもなく銀河はあっさりと席を立ち、短冊を手にホワイトボードそばの発表の場に進んだ。

 

銀河【それは自由でやさしいか?】

「墨田さん、日創研のことを話していいですか?」
皆の前に立った銀河から尋ねられた墨田が「はい」と答える。
銀河はうなずく。
立てかけられた令和2年の短冊には【それは自由でやさしいか?】と書されていた。
銀河が話し始める。

「墨田さんの人間力の高さはどこから来ているのか、私、訊いたことがあるんです。
そしたら日本創造研究所で勉強しているんやと教えてもらって。
ホームページみたら「あ〜、無理や私」と。(一同笑う)
それからしばらく経って、またホームページ見たんです。
そのとき「私も研修にいかなあかんわ」と思い、参加してみました。
研修には段階があって、いっこずつクリアしていかないといけないんですけど。
最初は【気づく】から。
経営するノウハウどうのより、【己をまずは知れ】と。
己を知らないのに経営なんてできんやろ、と。
去年の6月に2泊3日の研修に参加したんです。
自分が生まれたときから持っている自分を見るというグループワークや、ペアワーク、一人でやるワークなど、いろんなアプローチがありまして。
心理学や脳科学の見地から行うので、安心して臨みました。

それで、小さいときに親や友人や先生や、いろんな価値観が足されて今の自分になっているということ、それを見つけにいくという学びがありました。
他人のいろんな価値観がはいってきて、知らない内に自分の潜在意識になってて・・・
苦しいんですけど、そうやって歪んだものは、川に流すという・・
えーっと・・・わかりにくいですよね?」

大丈夫、わかる!わかる!と、席のあちこちから声が上がる。
銀河はほほえみ、話を続けた。

「いろんなワークや学びのなかで「あ、これだったんだ!」と。
会場には160人くらい人がいるんですけど「自分が見えた!」みたいな瞬間があって。
そのときに出てきた言葉が【それは自由でやさしいか?】だったんです。
去年、はっきりと、言葉でわかりました。
成長に気づかせてもらった研修でした。
なにかするときの判断基準として、これ(短冊)をもっています。
仕事もそうだと思うんですけど、子どもを育てたり、日々、生きていく指針になっています。
その研修に行ってからいろいろあって、今はいらんことを考えなくなって元気です」

すがすがしい表情で銀河が話す様子を、会場の皆が見つめている。

「なんかですね・・・『いらんこと』をいれたくなくなります。
私の場合、やっぱり「7つの習慣」と「仏教」に帰ってしまうんです。
【からっぽの部分ができた】というのは非常に大きいです。
表面上、やっていることは一緒なんですけどね。
あと、よかったことが2つあります。
1つは去年、私の近所に住んでいるお子さんが、友達に刺された事件があって。
その子の母親がもともとメンタルが弱いお母さんで。
そこまで親しくなかったんだけどご縁があって・・・
彼女の精神的なショックや、学校への怒りや、夜も眠れない複雑な気持ちなど大変そうで、病院や専門に診てもらったほうがいいと心療内科を勧めたんです。
でも、初診が半年後とか、めちゃ混んでたんです。
そこで、自分のことを踏まえながら、私の仕事に支障がきたすほど彼女に寄り添いました。
彼女も子どもは育てないといけないし・・・なんやかんやで彼女はウチで働くことになって」

会場が笑い声に包まれる。

「いつものパターンやな」と蒼天がニヤリと嬉しそうに笑う。

銀河が続ける。
「そうやってしばらく経って、彼女が私に言ってくれた言葉は『ありがとう』でした。
『もう、大丈夫、夜も眠れるようになった』って。
それで、あ、ちょっとお役に立てたかも。そう思ったんです。
専門知識もないけど、ウチで働けるくらい元気になったことが、うれしいです。

でもね、そういうことがあったって私はすぐに忘れるんです。
しがみつかないで、そんなことを忘れて、また日々を生きる。
そうしたらね、秋に職場体験がありまして。
中学生が二人、ウチに働きにきました。

中学2年の子で、たまたま知っている子で、職場体験を楽しみにしていた矢先に、そのお父さんがお金をもらって逮捕されて・・・家がぐちゃぐちゃになって、その子、お父さんと同じ職業に就きたいって言っていたのにお父さんの不祥事でにアウトになって・・・
学校にも行けなくなった。
野球も強かったのに、もぬけの殻になって、思春期の反抗期からかお母さんには口もきかないし、やばいな、と。
ウチの店は3人スタッフがいて、職場体験の前に打ち合わせしたんです。
事件には一切触れずに、一生懸命やってもらおう、って。
そして、定休日にみんなで集まって『将来のことを考える会』をしようと。

職場体験の最終日に、私が自分の人生についてちょっと話したんですね。
なんで公務員からパン屋さんになったのかとか、あといろいろ。
ロケットの植松努さんの講演や、キングコングの西野さんのYouTubeとか、イチローの言葉とか3本立てで観せたら、その子、泣き出して。
最後に作文を書いてくれました。
お父さんのせいにしないでちゃんとしよう。と。
学校も家も嫌や、ここ(パン屋)に通いたいとかわいいことも言ってくれて」

その子の表情を思い出したのか、銀河が柔和な顔になった。

「気持ちが伝わってうれしかった、2つのことです。以上です」

全員の拍手のあとで、緑山が銀河に言った。
「解決できる人のところに寄ってきますね、そういう話は。
【それは自由でやさしいか?】で」

銀河「そうです。それで導かれたんかなぁ、って」

緑山「よく伝わってきました。
ただ、もし、なにか物事がおきて、それは自由でやさしいか?「いや違う!」となったら?」

銀河「はい。ありますね。
誰かの機嫌をとるためとか、嘘が混じっているとか。
仕事はちゃんとしますけど、他の人間的な部分で、人との付き合いで、支配してくる人はいます。
私は支配されやすいほうなので、気づいたら、そお〜っと離れます。
そおっと伝えて、離れて。
前は『なんでもいいよ〜』タイプだったけど、それを、やめた」

蒼天が話す。
「ようわかる。【自分に素直か】ってことや。
優しいから厳しいことが言える。
嫌われたくないから厳しいことを言わないのは、優しくない。
ずばり、銀河さんの生き方。
いちばん自由やと思う。
また一皮むけるかもしれんな。さらに磨かれていきそうやなあ。
そしたら、新しい判断とか行動につながっていくやろな」

緑山「短冊、初OKですね!」

銀河が笑って、ふと思い出したように言った。
「あの、すごいことが起こってるんですよ実は。
車を運転していたら、サイドミラーが取れたんです。
なんか、電信柱に当たってたみたいで(ええっ!とどよめく参加者)
あと、ツナ缶開けたら、ツナ缶をかぶったんですよ(はあっ?!と参加者)
普通かぶらないですよね? 全身、油だらけになって。
あと、いつもパン作りながら仮眠するんですけど、毛布に足をとられて転んで体打って・・・細木数子さんのあれ、見てみたら、大殺界だったんですよ。
・・・怖ないですか?(一同笑う)
そのへんどうですか、先生?」

蒼天が答える。
「心が開いて、スペースがあるからや。
ひらめきとかね。それがさらに進んだカタチ。それはいいことやと思うわ。
いい前兆です。
理屈で解決できないものがこの世にはいっぱいあるから。
理屈で解決できる能力がついてきたから、理屈で解決できない能力がついてきたんや。
そういうスペースが銀河さんのところにあって、降臨してくるんやと思う。
日常に追われて余裕がないと気づかない。
今銀河さんに起こっているのは、余裕がある証拠や。
それがあるのはいいことや」

緑山が話す。
「車も、正面衝突やなく、ミラーでよかった。
ツナ缶も、切り口でブスーッ!じゃなくてよかった。そういうことですね」

「あっ! 車を軽くこするのは、いいことが起こる前兆だって。なぜかわからないけど」
と、紺野。

蒼天「銀河さんの年でそれを経験しているのは、末恐ろしいな」

蒼天も、皆も笑った。
「あなたは自由で優しい。
それを基準にして、大胆に進んでいってください」

緑山が他の参加者に感想を促す。
「菖蒲さん、いかがでしたか」

菖蒲「聴いてて思い出したのは、『そこに愛はあるのか?』でした。
日々いろいろ遭遇するのはいいなぁと思って聴いていました。
でも普通、出会った人にそこまで寄り添えないですよね。あらためてびっくり。
普通はやっかいなことから離れようとするけど、損得勘定はなく、心のままに寄り添って、その人が変わって行動や心で返してくれて。
時間は、かなりかかってると思うんですけど」

菖蒲の言葉に銀河がうなずく。菖蒲は話を続ける。
「それを続けられる人間力がすごいな、と。
去年、日創研のを受けようとおもった銀河さんも。
それだけ忙しいのにやっていたのはすごいなと思いました」

銀河「天狼院も一役、買っています」

蒼天「天狼院、あれはほんまにええ。4ヶ月で10年分の勉強をしたわ。
今までの発想のどんでん返しがある。
理屈で通じない、いままで知らなかったことを知って、今まで自分がやってきたことを照らし合わせて、こういうことか!と腑に落ちてガンガンガンと上がっていく」

菖蒲「化学反応があるんですね。
なんだか、銀河さんの近所に住みたい、と思うくらい(笑)。
「やさしさに包まれたなら」を歌いたくなるような、優しいオーラのある世界です」

銀河はにこにこ笑っている。

視界の緑山が、頃合いを見計らって先を促した。
「銀河さん、ありがとうございました。では、次。菖蒲さん」

 

菖蒲【そこに、愛はあるのかい?】

ブルーのジャケットに身を包んだ菖蒲が発表の場に立ち、手にした短冊を全員に見えるように掲げた。

【公・私 共の改革元年】

「青い字で書いてます、短冊。
青いインクは人の心に溶け込むという意味合いがあります。
黒より、柔らかさがある色です。
たとえば昔のガリ版。あれは黒で刷るより青で刷ると読んでもらいやすくなるのだそうです。
反して、黒はインパクトが強い。停止感、ストップの色です。
でも、青だと緩む、受け入れやすくなる。
・・・まあ、黒いペンが手元になかったので青で書いただけなんですけど(笑)」

おどける菖蒲に、参加者も笑った。

「最近はもっぱら“青い服 “で、勝負しています。
それは目立ちつつも、受け入れてもらいたいからです。
白黒だと迫力ありすぎて怖くなるので、意識してそうしています。

去年、初めて短冊を書いて・・・2019年は【アートとユーモアのある生活】でした。
私の目を通して選択したものを、アーティストの作品を表現する企画などの仕事をさせてもらいました。
大切なのは、おかしみやユーモア。それらが同時に表現できているか意識しながら空間をつくっていきたいなと。公私ともに。
2019年を振り返ってみると、できたかなと思います。
これは今年も連続するテーマで、今年も追求していきます。
第一弾は、大阪の芸術劇場。ホールで展示を行い、エレキのチェロを初めて手掛けたスペインの音楽家のコンサートを企画します。
初めて三味線がつくられたのは堺市だそうです。
中国から持ち帰ってきた楽器のアレンジが堺で生まれたことは、堺市の誇りにもなっているらしいです。
そして音楽家の彼がエレキチェロで追求した音が、ずっと研究していたのは三味線の音だったと知って、すごい偶然だと思いました。
導かれた感じがありますね。

私がやっている色彩に関しては・・・家の壁、つまり外観の色というのは、周りの人が見るものです。
つまり自分の家だからといって、外壁は公共性をおびています。
みんなが見る色として意識しないといけません。
私は、公と私の中間についていつも考えているような仕事をしてきました。
私の仕事は、白と黒の間の、グレーみたいな感じで考えてきたんですね。
たとえば花壇。自分たちが好きな花を植えればいいと思うけど、その道を通る人たちを楽しませるものもあります。外向き花壇といいます。
白と黒の間、境界線。グレーのゾーンですね。
それは自分たちがよければいい、ではなく、周りの人の目線を意識するものです。
境界線のどっちに引き寄せるかといった問題など、役所の人たちはやっかいなことは勘弁してほしいという風潮は、今は昔ほどではなくなり協働になってきた点はあります。
パブリックと自分たちの間にあるもの、色であれデザインであれ、「はざま」にあるものを一市民としてどう変えていくかとか、どうしたら街がきれいになっていくか、コミュニティレベルで考えてきました。
小さいときから【世のため人のために働け】と父に言われてきた影響もありますね。
でもね、「あ、自分のことを忘れてきた」と、気づいたんです」

菖蒲は会場の皆をぐるりと見渡した。

「人のことなら、どんどんアイデアが浮かんでくるんです。
いくらでもアイデアが見えてきます。おそらく才能があるんだと思います。
でも、自分のこととなるとさっぱり。
とくに! 愛の問題が!」

突然の「愛」発言に一同ざわめく。おお!と歓声があがった。

菖蒲「そこに愛はあるんか! と」
自身がしたためた短冊の「改革」の文字を見やった菖蒲が話し出す。

「【愛】をいれていきたいと思います。
わたくしの改革です。『決めつけていた私』の改革に取り組んでいきたいと思います。
改革というからには、私自身が変わるしかないな! と。
私は今まで、こんな人と一緒になりたい、結婚したいとか、今まで真剣に考えたことがなかったんです。それでも別にいいじゃん、って。
でもですね、それだと自分ひとりだけ。一人だけでは心の豊かさは実らない。
自分が豊かになることが、ひいては周囲のひとを豊かにする。
やっと、去年の暮れから思うようになりました。
なので皆さん、変わる自分を見ていてください!」

菖蒲のすがすがしい宣言に、明るい笑いと拍手喝采が起きた。

蒼天「もう一枚、短冊をもらって「愛」って書いたら?」

菖蒲「そこに愛はあるんかい、って(笑)? 歌みたい」

蒼天「グレーゾーンをどんどん大きくして、そこに価値をおく生き方、ええですね。
それ、あなたの仕事のポジションにしたらいいんじゃないかと思います」

菖蒲
「ですね。『つなぐ』『はざま』というのはありますね。昔から。
建物と道があると、その間の部分は誰のもの?とか、公共のものをどう使えばみんなが幸せになれる?と考えていました。
誰かが自分の持っているものを提供することで、他の人が幸せになる、楽しくなる、って。
一軒だけでは成立しないし、そこの売上が下がります。でも何軒もつながったらうまくいくんです。
雨風しのげるだけでなく、楽しい空間を作り出せる、街の構造も変わりだす、そんなことをずっとやってきました。
はざまという空間は、もっと可能性があります。

蒼天「はざまを主役にする、そんな設計や取り組みがあったら面白いな」

銀河「そうですね」

蒼天「それで有名になったら、そっから愛が生まれてくるんちゃう?」

菖蒲「そっちからっ!?」

一同笑う。

菖蒲
「どこにも境界はある。うまく活用したら面白いかもしれませんね。
はざまを輝かせたい。そこに・・・愛はあるんかい?で(笑)」

水島が感想を述べた。
「愛ってワード・・・事業にも愛があったらいいのかな?と思いました。
『そこに愛があるのかい?』でやっていったらいい気がします」

蒼天「うむ。今の菖蒲さんの発表にはね、良いヒントやアイデアがいっぱいあると思う。
それぞれの事業にあてはめていけますよ」

茶間が感想を伝える。
「菖蒲さんはなんの仕事をしているのかな?といつも思っていたんですけど、聴くほどすごいなと思いました。
はざまの話が、すごく面白かったです。
たしかに境界の落ち葉を誰が掃くねんとか、そういうことで揉めてたら悲しいですよね」

菖蒲「小出しにしてきました」

水島「まだまだありそうですね」

菖蒲
「最近では、『男はなぜ紫を使いたがらないか』というテーマで書こうと思っています。
今やってる案件でも、デザイナーたちが提案に黒ばかり出してくるんで、違うやろ〜って、戦ってます。
男はやっぱり黒を使いたがるんですね。
紫に関するエピソードや事件を書いてみようと思います。

緑山「菖蒲さん、ありがとうございました。
それでは・・・次は、黄金さん。お願いします」

 

黄金【本当にやりたい事だけやる】

皆の前に立つ黄金の隣に【本当にやりたい事だけをやる】と書された短冊が立て掛けられた。黄金が話し始める。

「ぼくは、正論ばかり言う人間でした。
それで、人のために頼まれたらやる、と今までずっとやってきたけど、自分が何したいの?となると、ないんです。
生まれたときから店をやれと言われて育って、あるとき社長になって、まあ、レールに乗ってきました。
社長になったのが42歳。
会社を継続し、社員を食べさせていくために、社員を幸せにするためにと、会社を成長させビジネスもどんどん広げていって挑戦してきました。
文具から始め、今は建設業もやっています。
ものを売るのがメインの仕事なので、ものを売るために何をするか。
いろいろやることの根っこには、それだけの報酬を社員に渡したい。
だから「僕がやりたいこと」じゃなくて「やんなきゃ」の意識で生きてきました。
不満ではないです。枠はあってもその枠のなかで自由にやってきました。
日創研がうまれたとき、実はぼくは最初の講習を受けてます。30代前半で。
(銀河が「知らなかった!」と目を丸くしている)
後継者の自覚もあったけど、自由にさせてもらっていました。
転機は、親父が死んで社長になり、守りにはいったとき。ガチガチになった。
そして60歳になって、いろいろ考え方が変わって、このままではアカンのちゃう? と。
副会長という立場、役員など、3つ4つ役があって、求められるのはありがたいことよね、地域のために、業界のために、で今までやってきたけど。
困ってる人がおるから、求められるからそれをすべきだと思ってきたけど。
自分がその役をやっているのは正しいと思ってきたけど、いざ役を降りて後継者をと思っても、誰もいない。
そのままで辞めるのは無責任や。「やーめた」は無責任やなと思って辞められなくて。
でも、それでも減らしていくけど。
で、60になった。これはアカンな。
社長業をずっとやってきたけど、紫垣さんの短編集の本(いちばん大切な約束を守る)にも書かれてたけど、「やるべき」ばかりでずっとやってきて、「やりたいこと」が見えなくなってしまっている。
いいかげん、ええかげんでやろうや、と。
面白くない。だから本当にやりたいことだけをやろうと、問いかけている。
それで、「ものづくり」かなと。
今日2人(銀河、菖蒲)の話を聴いて、いろいろ気づきもあった。
役を辞めろとずーっと言われて、実際ね、いくつか辞めてきたけど、それでもつい引き受けて自分の首を自分で締め続けてきているなと・・・」

「あのね。ぼく、確か10年前だったと思うけど、『辞めえ』と言ったよね」

突然、蒼天が黄金の話を遮った。場の数人が笑う。
蒼天「笑いごとじゃなく」

蒼天は硬い表情で続ける。
「『辞めえ』いう意味が、まだわかってないのかと。あなたの言う、正しさとは何だ?」

黄金「ぼくは、自分のできることやったら、頼まれたことにしっかり応えるのが正しい、と」

蒼天「卓球は?」

黄金「やれ、やれ、と言われたから、やりたくないんや」

蒼天「昨年の例会で遠山さんの『かぼちゃ』の話をしたはずや。遠山さんはかぼちゃの意味を正しく理解していたが、君は『卓球台』の持つ意味を理解できていなかった。今日に至っても理解できていない。それでも君は自分のことを一人前と思っている」

黄金「一人前とはぜんぜん思ってません」
黄金の語気が強くなる。
「地域のためと思うのは正しくない?」

蒼天「今の君にとっては正しくない。
10年前もぼくにボロクソに言われて怒ってたやろ。
あれからなんも変わってないな、バカバカしくなる。
そんなに変わるのが嫌ならもう(研究会に)来なくていい。なにも変わってない」

黄金「嫌やったら来ません」

蒼天「君の頭が固いねん、化石や」

「な、なんか・・・私に言われているみたい・・・」
蒼天と黄金の間に座る藤崎が、居心地悪そうに身をよじった。

朱田が口を開いた。
「もし、あのときに役を辞めないでよかったと思うんやったら、それがぼくの生き方やと思えるのなら、それで誰も何も言わないのなら、それもひとつの生き方やと思います。
一生を人のために尽くして生きる。それも生き方やと思います。
でも、死ぬ前にあれやればよかった・・・と思うなら、辞めたらいいのではと思うんです」

蒼天
「だから、先が見えている。
それやったらもう、研究会を辞めて。時間のムダや。
かぼちゃのレベルにちっとも達していないんや」

黄金が口を開きかけるのを蒼天が制する。

蒼天「卓球をやりなさいな」

黄金「だから! 言いましたやん」

蒼天「聞いてへん」

黄金「だから! 何をやりたいか模索しているんじゃないですか」

蒼天「60にもなって。どうにもならん」

緑山
黄金さんは、フェイスブックみてたら、ライオンズとかいろいろ引き受けてますやん。
あれって結局、会社の仕事の延長で、営業のためにやっているので、愚痴にしか聞こえないんです。
あそこが営業の場になっていて、そこで仕事を引き受けたりしていて、地域の人とのあれやこれも、仕事で。でも、楽しいなと思ってるならいいやないですか。
仕事は仕事で、やりたいことはやりたいことで、切り分けたらいいじゃないですか」

「うーん」と黄金が唸る。

銀河
「たとえばウチは、田舎の過疎化もあって。
地域を支えてくれる近所のおっちゃんや夫のおかげでいろいろ助けられているわけです。
げんに、私はここ(研究会)に入れるのはそのおかげやと思っています。
今は仕事や、とか割り切りがあればいいんやないかなと・・・」

蒼天
「あのね。ライオンズとかいろんな組織があるでしょう。
あれは昔から、悠々自適な人が多い組織なんです。右肩上がりで。
先のことを考えなくてもよかった、右肩上がりのときにできた組織です。
別にぼくはそういう組織を否定しているわけではない。
ただ、彼の、今の会社の実状からみて、そういうところに行ける状況か? と。
彼のその姿勢が今も変えられないのは、会社の業績がめいっぱいだからです。
ちょっとでも手を抜けばどうなるかわからない。
そんな実状も考えて、そういうことにうつつを抜かしていいのか? と。
さっき売上のことばかり話していたけど、売上が上がったら社員が幸せになれるんか?と。
ぼくは君のとこの社員さんを見たけど、幸せそうじゃなかった・・・
こうやって強いことを言うぼくは、黄金君になんの恨みもない。
研究会発足のときから、彼はずっといる。むしろ親心に近い」

おもむろに席を立った蒼天は、ホワイトボードの前に立った。
「僕はね、経営計画はいらないと言っている」
ホワイトボード用のペンを手にして、黄金を見る。

「彼は、経営計画はいると言っている。大企業には、いります」

(小さい四角形を描く。四角形のなかに飛び込む数本の矢印を描きこむ。)
中小企業で、経営計画をつくります。
そこに社員がはいってきて、その『計画の枠のなか』でやってくれ、これが中小企業。

しかし、大企業は、枠そのものが広い。
(大きな四角形を書く。
大きな四角形の中を泳ぐように数本の矢印が分散している)

この大きな枠のなかで、いろいろやったらいい。
それを取りまとめるのが社長や。

でもな、中小企業は枠が狭い。
こんなに狭いところでやりたくないけど、お金が欲しいから嫌々やっている。
前に、研究会で何度も報告があった。信頼していた社員が突然辞めた、と。
嫌々やっていたからだ。
かぼちゃはね、あっち、こっちと向いている矢印、これや。
彼らのやりたいことをやらせてあげる。
枠にはめたら、あかん」

蒼天は、ホワイトボードのそばに座っている藤崎を見た。

「これはな、藤崎さんもそうや。

(大きな枠のなか、中央から好きな方向に向いた矢印が数本散らばる図を指して)

枠が大きいと、それぞれの組織で働いて、合わなければ違うセクションに行くことができる。
だが小さい枠だとそれができない」

藤崎が深くうなずく。
蒼天は再び、黄金に向き直る。

「君は枠をつくって、そのなかに社員を閉じ込めようとしている。
それがダメやというんや。
社員がどんなことを考えて、どんな資質があるかをみて、それで彼らの能力が発揮できるかをまとめあげる。
なのに、『いやビジネスモデルが必要や』と言っている。まったくかってない。

彼らがなぜ君についてくるのか。
辞めてもほかで雇ってもらえないからです。
それを彼は理解できていない。
なぜなら彼は弁が立つから。
社員の幸せと言っているけど、長期的にみたら幸せとは言えない。
なぜ、かぼちゃがいいか。
人が集まったからです。
そこに、それぞれの潜在能力、個性、資質が活かされているからです。
中小企業は、大企業を小型化したものではありません。
それは百年企業のホームページにもはっきり書いています。
日本の中小企業が厳しいと言われているのは、枠にあてはめているからです。
慢性的な人手不足で、企業過多なんです。
いずれ、リバランスされるでしょう。
まずは一人ひとりの特性をみて、資質をみていかないといけないんです。

黄金「でも少しずつは、やっているんです」

蒼天「君の頭が変わっていないのが問題。それが客観的に見える君の姿」

藤崎「・・・たぶんね、黄金さん、今の僕と一緒です」

蒼天「君がかわいいから言ってるんや」

「そこに、愛がある・・・!」

朱田と銀河がほぼ同時に言うと、顔を見合わせた。

「・・・えー、議論は尽きないようですが」
緑山が、終わりそうにない場の流れを穏やかな声色で止めた。
「そろそろランチの時間ですので、続きはランチしながら、ね」

蒼天「もうええわ」

緑山が苦笑いする。
「では、2時半に再開で」


(ランチ休憩)


午後の部は、昼食で黄金の隣に座っていた銀河の一言から始まった。

「あの。さっき黄金さんとお昼食べながら話を聴いていて。
印象に残っていることを、一言だけ。
黄金さん言ってました。
『この歳になって、こんなに怒ってくれる人はおらへん』と。
蒼天先生に対する感謝を述べておられました」

会場のそこここから、静かで暖かな拍手が起こった。

緑山「銀河さん、ありがとうございます。では次、紫垣さん。お願いします」

紫垣が皆の前に立ち、短冊を掲げた。

 

紫垣【希望の物語を編む】

紫垣が、短冊を手に話し始めた。

「今までほとんど自分のことをお話しする機会がなかったので、ほとんどの方にとってはいつも議事録をすごい勢いでタイピングしている人だな、くらいの印象かもしれません。
私はライターをしています。
経営者の方のプロフィールや自伝などの本を代わりに書いたり、ブログの作成代行などいろいろ、書くにまつわる仕事をしています。
といってもライター歴はまだ2、3年ほどです。
それまで何をしていたかというと、20こくらいの仕事を転々としていました。
不動産会社の正社員から契約社員、派遣、アルバイト、広告代理店の営業などいろいろです。
なぜ転々としていたかというと・・・単に、自分の人生についてまじめに考えていなかったのはあります。
それと、私は昔の記憶がなぜかほとんどないんです。
思い出を憶えていられない、という。
どこそこに行ったね、何をしたね、と家族で思い出話をしているとき、憶えていないので適当になんとなく笑っています。
なにをやっても忘れていくんですね。
嫌なことは忘れて、嬉しいことは憶えている、といった選別もなく、記憶も味わった感情も8割がた消えていきます。
なにをやっても積み上がる感覚がもてず、宅建や英語教師の資格やら取っても、達成感もやりがいもぼんやり消えていく感じがありました。
それが心もとなくて、無計画に仕事を変わってきたのかもしれません。
思い出をほとんど憶えていられない自分が怖くて、20代の頃に脳神経外科でMRIを撮ってもらったりしました。
結果は異常なしで、じゃあ、ただの記憶力のない馬鹿なのかと、異常なしの診断に喜べない自分の辛気臭さがうっとうしくて。えーと、屈折した20代でした。
そんななか、唯一つづけていたのは日記を書くことでした。
憶えていられないからその代わりに、記録していたんですね。
それが回り回って今の仕事につながっています」

紫垣は立て掛けていた短冊を手に取った。

「短冊には【希望の物語を編む】と書きました。
「編む」という字を使ったのは、「編集」という言葉からです。
編集は、集めて編む、と書きます。
『人生は、編集である』という言葉を聞いたことがある方、いらっしゃいますか?」

2〜3人がかすかにうなずく。紫垣は続ける。
「いろんな人の話を聴いて物語を書くお仕事をしていて、思うのが、人生は編集だな、ということです。
インタビューで伺っていると、私から見てとても魅力的な半生を過ごしてこられている方でも「自分なんてつまらない人生だ」とか「たいしたことはない」と言われる方がおられるんですね。
謙遜というよりは、自分の人生を、ネガティブに過小評価した編集をされているのかな、と。
その人の人生で起こったすべてを書くわけにもいかないので、出来事やエピソードを抽出するのですが、明るいところと暗いところがあるとして、暗いところを集めて編集している人が多いな、と感じました。
私はそれを、希望の部分を集めて編みたいなと思ったんです。
人生いろいろあって、紆余曲折も、山も谷もあるけれど、最後は明るく希望に終わる。
天狼院ライティングゼミでも学んだ「ポジ抜け(ポジティブな雰囲気で文章を締める)」も意識しています。
そんな思いを、短冊に書きました」

蒼天「ちょっと自分で、ごまかしているところがあるんちゃう?
本心はどこか、別のところにある」

紫垣「人が怖い・・・とか、そういうことでしょうか」

蒼天「いや違う。そんなんやない。
あのね、『憶えてない』ってあなた言っていたけど、これは素晴らしいことなんです。
ぼくも過去で憶えていないことがたくさんあるんやけど、何が起こっているかと言うと、めちゃくちゃ成長しているときか、ドン底に落ちているとき。そのどちらか。
日記では書き表せられなかったところがありました。
自分のことを憶えていない人生というのは、それは、素晴らしいと思う。
ぼくが言いたいのはね、たぶん、あなた自身はもう不安は感じていないんじゃないか。
ぼくに言わせれば、それは嘘やないかな、と感じます」

紫垣「ああ・・・たしかに、不安は今はないですね」

蒼天「そうやろ」

紫垣「開き直った、というか」

蒼天「そうやなくて、成長したからや。
ぼくだったら開き直らないで、ポジティブもネガティブもひっくるめて、むしろ記憶に残らなかった部分がいい人生だったと思います。
たぶん、あなたも、よく似てると思います。男と女の違いはあるかもしれんけど。
あとね、「ポジ抜け」について。
これはあなたの性格や。もともと意識しなくてもやっている。心配しなくてもいい。
あなたを成長させたのは、書きまくったことや。
それでね、書きまくっても書ききれなかった部分が、面白いんや。
普通、書きまくってたら記録が残ってるやろ。でも、残せないもんがあった。
それほど、感情と表現に大きな落差があったってことです。
だから憶えていないんじゃないですかね。
紫垣さん、短冊に書いたのは?」

紫垣「【希望の物語を編む】ですね」

蒼天「そんなん、小さい。小さすぎるわ。
もっとでっかいことを僕は求めるべきやと思うな」

紺野「水島さん、紫垣さんに新しい短冊を!」

蒼天「それは、おそらくあなたが、自分を小さくまとめてしまう傾向なのかもしれん。
目先はそれでもいいかもしれんけどね」

「紫垣さん」と、水島が新しい短冊を紫垣に手渡した。

紫垣「ありがとうございます」

蒼天「大事なことはね、さっき銀河さんが言っていたように、【空(から)になること】。
空になるまで書きまくること。それは意義があると思う。
空になるほど書きまくって書きまくってこの程度か、と知る。
でな、書きまくって書きまくっても、まだ残ってるはずなんや。
小説家なんて、いっぱい本を読んでる。
でも本をいくら読んでも何も残らないでしょう。
論理は残っても、情緒とか感情はカタチには残らない。
だから、そのカタチにならない部分をいっぱい掘り出してきて、書く。
それを空っぽになるほど書ききってから、ようやくインプットする。
カタチにならないものを全部吐き出してから。
別にカタチにはならなくても、「目には見えない知」が積もっている。
小説家はそこのアウトプットに価値があるんです。
たぶん紫垣さんも、そこで葛藤があると思う。
まだ経験不足やし。まだまだ本も読み足らない。
人の物語を編集するんやなくて、自分の、もっと目に見えない蓄積をバンバンやったほうがいい」

紫垣「実は、創作もしたいと思っています。
日記からこぼれた目に見えない感覚が、創作に活かせるのかもしれません。
今まで自分の人生はクソだ、たいしたことない、と思うほど自己評価が低かったのに、そんな自分自身のことを書いた文章で天狼院のメディアグランプリを獲ったのは自信になりました」

蒼天「ひとつ言っておくと、あの天狼院のグランプリは、書いた部分以外のマーケティングなどの条件があるので、あてにしないほうがいい。
あなたは拡散など仕掛けた。動いた。ぼくは何も仕掛けていない。
もしあなたが仕掛けてなくて、はたして一番になったか。
それは考えたほうがいい」

紫垣「そうですね・・・。でも、動いたから結果がでた、ということ自体、今まで出来ていなかったことだったので、私には意味がありました」

蒼天「プロになったら、拡散しなくても結果を出さなくてはならない。
要は、働きかけなくても結果を出せる。それが課題です」

紫垣が短冊を指差す。
「それがこれ【希望の物語を編む】です」

藤崎が口を開いた。
「うーん。もう、それ、できてるでしょ、って感じなんです。
それ、すでに出来てるし、普段からやってることじゃないの?と思います」

藤崎の言葉を受けて、紫垣が、思い直したように話し出す。
「ああ・・・これ、実はもう一つの意味があります。
フィクションで【希望の物語を編む】。
フィクションを書きたいということです。
ノンフィクションというか、人の物語はすでに書いていても、フィクションを書き上げられたことがなくて」

朱田
「それはさっき、この発表の後半になって初めて言ったことでしょう。
私らは紫垣さんがフィクションを書きたいと思ってるって、知らんかったからね」

紫垣「あ、そうですね」

蒼天「それやったら、なおさら、人の物語を書いている場合じゃない」

紫垣「そうなんですけど・・・フィクションを書いているうちはお金にならなくて。
私が今、家計を担っているところがある事情もあって、生きていくための生業の仕事をしないとな、というところがあります」

蒼天「それでもや。問題はいろいろあるやろうけど、仕事じゃないものを書く時間をつくらないといけない」

紫垣「そうですね」

緑山「はい。紫垣さん、ありがとうございました。
では・・・次は、久しぶりに来られた桜庭さん。お願いします」

 

桜庭【救いの旅を創る】

桜庭が掲げた短冊には【救いの旅を創る】としたためられている。
桜庭がゆっくり話し出す。

「おかげさまで、ツアーの仕事で、すこしずつお客さんも増えてきています。
お客さんはトランプ派の人はほとんど来ないですね。
ヨーロッパから来られた方は、グレタさんの話をされる方が多いです。
環境問題にも関心の高い方々です。
最近だと、オーストラリアの火災などもあって、地球が大変なことになっている。
そんな状況なので、この商売について悩んだりもします。
こんな地球になっていたら、飛行機をバンバン飛ばしてる場合じゃないんか。
こんな商売をしていていいのだろうか、と悩んでいました。
うちは順調に成長していても、なんというか、純粋に生きている人に申し訳ないなと思うことがあります。
じゃあ辞めたらいいのか? 木を植えたらいいのか?
答えはでていないんですが、私は私なりにできることを模索しています。
今年のお正月に熊野古道に巡礼のマネごとで訪問させてもらったんです。
自分にできることを模索させてもらったんですけど、こういうところにお参りさせていただいて、何かを学ばせてもらえればなと。
そんな一年にしたいな、と思っています。
今まで家にひきこもっているか仕事しているかだけだったから、いろんなところに回って自分にできることを模索したいな、と。
富裕層や社会的な地位の高い人がお客さんに来られるので、その人達とも一緒に考えていかなければいけないと思っています。意識を共有したい、と。
ちいさな目標かもしれませんが、これが私の目標です」

紺野
「んー、忙しいと思いますよ、ホント、わたしもそうですけど、忙しい。
だから荷をおろしたほうがいいと思いますけどね、ほんとに」

桜庭がすこし戸惑ったように笑う。

緑山が桜庭に質問する。
「あの、【救いの旅を創る】ってありましたけど、地球や環境に対しての話とかがあったけど、熊野古道の話とか聴いていたら、救いというのは「自分に対する救い」なのかな?と。よくわからなくて」

桜庭
「熊野古道は、自分への、インスパイアされた場所ってことです。
自分自身も体験したいなと思って、そうはいっても生きていかなければいけなくて」

緑山「まったくわからないんですけど。誰か何をどう救うのか」

桜庭「わからなくて、すみません」

蒼天
「お客さんが感じるのは自然の問題とか環境問題。
これからの人間はどうなるんだろう、とか。
それで結局なにが必要かというたら、桜庭さん。
あなたが人の心の問題や目に見えない問題をすべて受け入れて、これからどういう考えでこの仕事をまっとうするか。
それを今年固めるのが大事やと思う。
それを意識してこの仕事に邁進するのが大事やと思う」

桜庭「ありがとうございます」

蒼天「それはものすごくスケールが大きいし大変やけど、お客さんとの対話から創っていくことやと思う。
コミュニケーションで汲み取って、感じたものを、マスターしていく。
・・・あなた、日記書いてへんやろ」

桜庭「書いてません」

蒼天「だめや。感じたことをすぐ書くこと。
知識をすぐに書くのではなく、自分の考え方で社会を動かすパワーをどれだけ持っているか、それが大事や。
これまでは知識をずっと習得してきたけど、これからは心の時代になってきた。
心をどれだけ開いて受け入れられるかで、格差が生まれていく
心の格差が、これからどんどん開いていく
仕事でそれをどうマスターするか、そこをひとつがんばってほしい。
信仰の道を進むのはいいと思います。
ぼくも毎日般若心経あげていて、もう20年か30年になる。
そこからいろんなものが、手繰り寄せられていく。
それをノートにブワーッと書いている。それが日記。
「見えないもん」をどう手繰りよせられるかや。
それをひとつがんばってほしい。
もっと、ビジネスがんがんやりい」

桜庭がうなずいて微笑んだ。
「先生とは、師匠と弟子として薫陶してもらって、先生のセオリー通りにやってきて、先生からもらった虎の巻のとおりに踏襲したら、世間からいい評価がもらえて。
研究会から一年離れているうちに私の心の動きと、このタイミングが一致したなと思います。
いま、人として全く違うことを求められている。
それで(研究会に)戻ってみようかなと。
ちょうど私が弱い分野を扱っていて、これは戻らないといけないと。
暇さえあればいろんなところに出かけながら。
いま、阿闍梨さんのツアーをやってるんですけど、前は高いから売れてなかったんですが、ここにきてポコポコ売れてきて。
なにかおもしろいことがやれたらいいなと思っています」

銀河「私が桜庭さんと知り合ったとき、私は仏教系で、桜庭さんはキリスト系で」

桜庭「キリスト系じゃないです(笑)」

銀河「あれ? 違った(笑)。えーと、そのとき宗教の話をしていたんですよね。
それで桜庭さんが「比叡山が嫌い、僧とはいえ人殺しをするのは嫌や」「私のツアーにはいれるのは怖い」というこだわりをもっていて・・・ですよね?(桜庭がうなずく)。
でも今、話をきいていたら比叡山の話があったので「あ、やわらかくなったな」と」

桜庭「そうですね。あの場所が素晴らしい人を生んだという背景もあるし、大学みたいなところですもんね。
今、縁をもらった人から立ち返らせてもらっている感じですね。
いろんな話をさせていただきながら、世界の平和に結びつくようなことをしたいなと」

桜庭が緑山のほうを向く。
「わけ、わかんないですか?」

緑山「うーん。あとで、個人的に訊きます(笑)」

朱田「私はわかりました」

藤崎が話す。
「皆さん、ほんとにまぶしいなと。
今日も、吸収させてもらうことがたくさんありました。
もっともっと自分で考えて進んでいきたいなと思いました。
遅刻して、銀河さんの話が聴けなかったのが残念です。
大きな案件があって、今日も戻らないといけないんですけど、それでも来てよかったです」

山吹が感想を口にした。
「私も、皆さんすごいなと。とりあえずこの会についていけるか?と。
でも、先月16日からここに参加させてもらって、生まれ変わるつもりで。
セカンドライフみたいに、この会に賭けてます。
「次の失敗は許さへんで」と言われて、お客さんを切ったみたいな状態になってるんで、つなぎ直せるかなと思っています。ありがとうございます」

蒼天
「今日ひとつ言いたいのは、『10年10倍ムーンショット計画』が一つもでてこなかったこと。
今日、5人の発表を聴かせてもらいました。
「目に見えないパワー」をどうやって意のままに操るか、それがこの10年で大切になってくると思います。
そのパワーをいかに養うか。それがポイントです。
そのためにはそれぞれ、自分がなにをすべきか深く考えていただいて、実行に移していただきたい」

蒼天が緑山を見やった。
「たとえば緑山さん。さっき、『わからない』と言われてましたけど」

緑山「はい」

蒼天「日記書いて。毎日書かないとわからない」

蒼天が紫垣のほうを見た。
「紫垣さんは日記を書いていたから、この実力が備わってきたのかもしれません。
紫垣さんは、一日2ページ書いているそうです。
その2ページは、ばかにならない。
「目に見えないものが見えるようになった人」と、「見えないものが見えないままの人」。
そうなったら、追いかけようがない。
だから今のうちに、その取り組みを始めないと。
今年は10年10倍の初年度だから、歩みを進めてほしい。
その始まりが日記です。
ありがとうございました」

墨田が「感想を」と言い、参加者を見渡した。
「【10年10倍ムーンショット計画】は今日の短冊発表では出てませんでしたが、案外その、空白の部分がでてきたりとか、話がありましたよね。
僕が感じたのは、理屈とか、科学的にわかるとかじゃなくて、感性やセンスがあるよな、と。
それを意識すると空白が生まれるかな、と思います。
それが皆さんの発表に共通するものなのかな、と。
そのきっかけが、日記とか、積み重ねなのかなと思います。
そんな感じです」

司会の緑山がハリのある声で、半日間に及んだ2月例会を締めた。

「今日は銀河さん、菖蒲さん、黄金さん、紫垣さん、桜庭さんの、5名の方から発表いただきました。
来月は他の皆さんの発表がありますので、よろしくお願いします。
では、おつかれさまでした!」

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