読むドラマ(議事録)

相手を知ることは、自分を知ること。
年齢も業種も異なる経営者たちが、月に一度つどう目的はただ一つ。
決して一人ではたどり着けない月面「本当の自分」に降り立つため。
これはそんな経営者たちのリアルなやり取りから生まれたドラマ(議事録)です。
(禁:無断転載)

 第135回 百年企業研究会内容(2020/01/16)

<肚をくくれていない今のままじゃ、まずいことになる>

藤崎からの資料には、二つの時間割が並んでいた。
資料が全員にいきわたったのを見て、藤崎が話し出す。

「新年にあたって、自分のなかでテーマとしてきたのが【自分の世界観を描きたい】というものです。
生きていく目的を考えるうえで志のある生き方って?と思ったときに、5年後、日本一になりたいと思いました。
まずは今、自分ができることで日本一に。
今やっているシステム開発、食肉管理分野で日本一になりたい、と。
でも、それは今の延長上ですね」

藤崎が資料に目を落とす。

「前回の資料に加えてきたんです。右側が改訂版(時間割)。
まずは自分の生活習慣を変えようと、自分の時間を取るためには?と思っても絵に描いた餅になりかねない、と。
会社を任せきるほどの人材を育てないと、やりたいことができない、両立できないのでなんとかしないと思っています。
自分のことをアウトプットしたりインプットする時間をつくらねばならぬと思っている・・・という感じです」

言い終わると、どこか居心地悪そうに笑った。

「あんまり進歩してないな」

蒼天の一言に、一同笑う。
藤崎も苦笑いする。

蒼天
「もし日本一を目指すなら目指してほしいけど、ならば自分の時間をつくらないと。
必須ですわ」

藤崎「考えない時間がないわけじゃないですけど・・・」

蒼天「時間と、場所も」

藤崎「場所も?」

蒼天
「空いた場所で、空いた時間で、では足りない。
それでは日本一にはなれない」

藤崎
「そうなんですけど、今は両立できないかなと。
そうするためにはどうしたらいいかなと思っていま・・・」

「あのね」

蒼天が藤崎の言葉を遮った。

「矛盾があるんですよ。
仕事を社員に任せきるために、って(資料に)あるけど社員はすぐには育ちませんよ」

「そのとおりです。そのとーりなんです」

藤崎が頭を大きくタテに振った。

「仕事を与えることが大事です。
与えるためには、藤崎さんは何をすべきか?
答えは簡単。
社長の仕事だけをやるだけ」

藤崎が両手を組んで口元に置いた。

「はい。実際、任せたんですけど・・・フィードバックしなかったんで失敗したと思ってます」

白石が言う。
「任せる土俵もなしにやったから」

藤崎「そのとーりなんです。そうそうそう。」

蒼天「日常業務以外のことをしない。受注を減らす」

藤崎「それはできないんです、現実問題」

朱田
「本人に減らす意志がなければ、変わらないですよ。本気にならなければ、変わらない」

蒼天
「そんな意志のレベルではできませんわ。これ(資料)は絵に描いた餅。世界観は描けまへん。

藤崎はうなだれた。

「それは、よくわかります」

蒼天
「優先順位の問題ですよ。5年先を優先するか、今を優先するか。
今にいたるまでにいろいろあったでしょう。葛藤とか、軋轢とか、摩擦とか。
それを乗り越えて今がある」

藤崎は何かを思い出すようにうなずき、そして
「・・・減らす覚悟はしてないですね」
と言った。

蒼天
「現況優先ですね。では5年後も変わりません」

藤崎
「ですか・・」

蒼天
「しているつもりだけど、結果的にはしていない。
そもそも、ちょうどよく減らす、じゃなくて赤字覚悟で減らす」

藤崎
「それはいいんですけど、でも会社を危機的な状況にしてまでは。
将来のビジョンがある危機ならいいですよ。
僕のビジョンがまったくないわけではないので。
つまりは、肚をくくれってことですね」

「たとえば」
蒼天が、テーブルの向かいに座る銀河を見やった。

「銀河さんは、大口のお客さんを断ったんや。彼女はそう判断して、バサッと切った。もちろん目先は大変ですわ。
でも先々を考えたいい判断だった」

白石
「肚をくくれるほどのビジョンが出来ていない」

蒼天
「そのための時間です」

藤崎
「それがとれなくてジレンマに陥ってるんです」

朱田が言う
「本気で変わりたいと思ってはらへんのでは?
5年後も10年後もこのままでやっていきたいと思ってるでしょ」

藤崎
「それはない」

朱田
「でも、本気度がこの紙からは見えてこないんです。本気じゃない」

藤崎が、むむむ、という表情になる。

朱田
「白石さんはかなり変わりましたよね。
お二人とも仕事がすごく好きで、忙しくしてる自分が好きなんじゃないですか?
変わりたくないってのが・・・」

藤崎
「におってくる?」

朱田はうなずく。
「うん。今こんなにやってる僕が好き、みたいな」

「思ってないんですけど、そう見えるんですね」
藤崎は小さく息をついた。

「自分のやりたいことを追求しているかという話ですよね。
それは、自分のやりたいことと一緒ではないかも? とジレンマがある。
それが重なるならうれしいけど」

朱田
「なんかね、そっちの情熱が強いと思うんです。
夢への心構えがまだはっきりしていないのに、無理やりやろうとしている」

白石
「仕事を選んで、できた時間があるとする。
その、時間がはみでたところに、なにか別のものを増やさないこと。
もし何かが来たら、それは捨てる」

藤崎
「うん。人によって捨てるものは違うと思うんですけど」

蒼天
「自分のやりたいことが明確じゃないから、あれもこれもやりたくなるんです」

藤崎
「今、食品ロスなど世間で社会的問題になっていますよね。
うちも食肉管理を完全システム化し自動で承認できるように、などいろいろ考えたりしています。
でも、それは自分の【本当の夢】なのか?
それが自分に課せられたミッションか?
それが本当にやりたいことか?と、思い始めると・・・」

白石
「やってみて違うかなと思ったら、そのときに変えたらいいんです」

蒼天
「藤崎さん。ロードマップがないと、思いばかりが優先してどうにもならない。
まずしなければならないのは、5年先に何を目指すかを明らかにすること。
それをもとに、ロードマップをつくる。
例えば白石さんの【かぼちゃ】といった、誰にも出てこない発想や。
それらは偶然生まれるもの。
そこには、心や時間の余裕がないと、生まれないものや。
ハイ、かぼちゃの種をもらいました、それを捨てなかった、ほかさなかった。
その発想に至ったのは、白石さんに心の余裕があったからです。
藤崎さん、みんなあるんですよ。
僕にもありました。
受注が多くていっぱいになって、断れなくて、売上が上がって、ずっとやり続けて。
10年かかって、自分の中が空(カラ)だと気づいた。
自分のなかには、何もない、と気づいた・・・」

昔を思い出す表情の蒼天が、ふと今の藤崎を見つめて言った。

「このままだと、あなたもそうなる」

藤崎が、まばたきもせず蒼天を見た。

蒼天が言う。「思いだけでは始まらないのや」

藤崎「思いがなければ始まらないでしょう?」

蒼天「オリンピックに出たいと思っても、それだけで出れるか?」

蒼天の言葉に、藤崎が口をつぐむ。

蒼天「このお正月で考えてほしかったのに、残念や」

藤崎「そんな余裕、ぜんぜんなかった・・・」

白石が話す。
「せないかんこと、藤崎さんわかってると思うけど。
仕事を社員にまかせるためには? とか。
それをやるために、具体的なことはあるのかな?」

藤崎
「動いてはいるんですけど、やりかたは泥臭いんですけどね。
会社で今までできていなかったことをやってはいるんですけど、そのために忙しいのもあって、言い訳になってて。
結局、肚をくくってないんだろうなという思いがあります」

白石「その考えは、社員と共有してるんですか?」

藤崎「しています」

白石「ならいいのでは?」

藤崎の声が少し小さくなる。
「僕は期待してるけど、相手に伝わっているかどうか。
もしかしたら、ギャップがあるかも」

蒼天
「伝わってないわ。藤崎さんの本気が伝わってない。
毎日、毎日考えて右側(理想の時間割)をつくっていったら、説得力が生まれただろう。
自分を軸の中心に据え、常に考えていたならこうはなりません」

藤崎
「う。考えていなかった・・・わけでは、ない」

藤崎も、蒼天も、皆も笑った。

「これでは前に進まへんな」

蒼天が体を反らして、椅子の背もたれに預けた。

水島
「前回の、理想の時間割をまずは1週間やってみるのは、どうなりました?」

藤崎
「できる限り時間割に合わせて動きました。
でも日が経つごとに仕事がつまって、帰りの時間が後ろにずれこんで。
でも、それをあわせようとして・・・でも現実路線でいくと、やっぱり。
『覚悟がない』と言われると、うーん、なんですけど。
どうしてもやらねばならぬ、みたいな仕事がどんどん後ろにおしていって・・・」

水島
「タスクを書き出して、なににどれくらい時間を使っているか、とかやってみました?」

藤崎
「やりました。だいぶ前だけど。
でもこれが何になるのかな、と。タスクあげるだけで」

蒼天
「あげるだけでは意味ないんです。
白石さんは日記を10年、修正日記でも3年、それだけ黙々とやってはるんですわ。
その蓄積が自分の考えをまとめていくんです。
関心のあることだけを書いていくからね。
それで『なにをすべきか』『なにをすべきでないか』を取捨選択できるようになる。
でも、積み上げないと・・・」

蒼天が言い終わらないうちに、藤崎が「やってます」と答えた。

蒼天
「それを最優先です。書いたきりにしても意味がない。
だからこそ、修正日記ですわ。
その時の思いだけでは、ブラッシュアップされない。
続けて一定の成果が認められるまでは「やってます」とは言えません。
自分の身になっていない。
日々のルーチンができていないから、思いばかりが先走って、目先の美味しい仕事に向いて、結局なにも変わらない。
そこへメスを入れないと、変わりませんよ」

藤崎が「う〜ん・・・」と唸った。

蒼天
「睡眠時間を決めること。
それから残りの時間で、理想とする時間割をつくり、5年先を見据えてそれを最優先して日常業務をする。
そのためなら、会議も中断する。自分のために。
それくらいしないと。あなたは社長です。
そのへんをきちっとやらないと、地に足が着いていかない」

「前は着いていたのに、着かなくなってきた・・・」

藤崎が答える。

「前より確実に忙しくなってる。
ガンガンしたくないのに、依頼がめちゃくちゃ増えている。
マンパワーでやっている状態ですね。
そこに手を抜くわけにはいかなくて、今の課題をなんとかしなければ、と・・・」

再びループにはまった状態に、場の空気がしんと静まる。

「肚くくってるかと言われたらぁー、返す言葉もぉー、ない!」

沈黙を破って藤崎が笑い、皆もそれにつられて笑った。

紺野が提案する。

「仕事を減らすプランを考えてみたらどうです?
蒼天先生のいわれたとおり睡眠時間を確保して、今までとは真逆の、「エーっ!」って思うようなこともする。どうでしょう?」

藤崎「・・・イメージがつかないのだけど」

白石
「思い切って11時間寝るとか。
残りの何時間で、仕事を割り振るとか」

藤崎
「・・・社内が完全にオーバーフロー、キャパオーバーになっているんですよね」

朱田
「減らすしかない」

藤崎
「実は、今やってる仕事は2年前に受けた仕事なんです。
今やめると2年後、3年後にどうなるの?って」

蒼天「とめたらええやん」

藤崎
「それをこなせるような会社をつくりたいんです」

朱田「それを考えるにしても、時間が必要なんですって」

蒼天
「こうしましょう。
2、3年前に受けた仕事のなかから優先順位をつけて、仕事の手を抜きましょう」

キッパリした物言いに一同が笑う。

蒼天「それしかないやん」

藤崎が慌てた声になる。
「トラブルになるでしょう!」

朱田「寝るな、より、無理な話ですねぇ」

菖蒲「たとえば、育休とか。山でこもりますとか・・・」

紺野が全員をぐるっと見回した。
「仕事を減らした人の意見を、聞いてみましょう。誰かいますか?」

手を挙げた数人から、実際の話を聞くことにした。

白石が口火を切った。
「利益率だけを考えたら、仕事量を減らしたほうが儲かるよ」

白石の断言に「ええっ!」とあちこちでどよめきが起きる。

「それはね、利益率がいいやつだけを取るからです」

白石が話し始める。

「最近、自分が従業員に言ってるのは、【オレの方舟に乗せないよ】ということ。
つまりオレ(社長)の船じゃなく、自分の船に乗ってね、と。
オレの船じゃなく、みんながそれぞれの船に乗る。
それで艦隊をつくったらいい。
もし先頭のオレの船にエンジントラブル起きたら、「じゃあ俺が先に行きます」と社員が先を行ったらいい。
世の中の社長は「オレの船に乗れ!」っていうパターンが多いです。
でもそんなんで、おぼれた人を助けることができますか。
いまと観点をまったく変えることが、一所懸命会社のことを考えるきっかけになる」

白石の次に、銀河が「参考にならないかもだけど」と、体験談を話しだした。

「さっき話があったように、大きいところを断ったあと、大変だろうと思ったけど、そうでもなかったです。
そのぶん、自分で向き合う時間や、勉強する時間、日記の時間、と、環境がつくれていった。
あ、仕事を二の次にしたわけじゃないです。
市内の大きい取引先だったんですけど【地元に密着した仕事をしたい】と思ったから、断った。
【無理して突っ走らない】という姿勢は、スタッフにも伝わるんです。
地元のためになら少々の無理はできるけど、ほかの地域にはしないと、スタッフが認識してくれた。
なにより、一番だいじにしてほしいのは、【自分自身を大事にしてほしい】ということ。
彼女たち自身も、自分を大事にしてほしい。
彼女たちの健康、家族、彼女自身を。
結果、協力体制ができたんです。
『生き方を考える会』とか開催したりして、スタッフの距離がちぢまった。
みんな違う人生で、みんな尊重されるべき、それで見えないつながりが生まれていく。
とは言っても私も十分に寝てるとは言えないけど。
子どもと海外に行ったりできた。それは前だったら考えられないことです。
なんかね、【半歩だけ誘導する】感じ。
一歩じゃなくていいんです」

「減らしたきっかけは何かあったんですか?」
藤崎が質問した。

「交通事故です」
銀河が笑った。

「睡眠時間がほんとやばくて、3日で2時間とか。
(全員、驚いた顔になる)
このままやったら死ぬな、と」

藤崎「そこまでいかないと気づかないのか・・・」

銀河「アホやからね(笑)」

藤崎「一緒かもしれない・・・」

銀河
「そんな状態になって、で、大きい取引先を止めてもね、利益は変わらないんです。
人が辞めて人件費減ったから」

白石
「ウチも、窓口広げるとウチの仕事じゃないよね、ってのがある。
グロスで見ると儲かってないなと。
前は、『仕事をする人はいい人や』という考えがあったけど、最近の流れは違うでしょう。
スティーブ・ジョブズとか。仕事しすぎるのはよくない。
仕事熱心なのが、すべていいわけじゃない。
【ウチじゃなければだめな仕事をする】と切り替えたら、いい感じになった」

朱田
「私はみなさんみたいに仕事好き!ってわけじゃなくて。
あ、イヤ、好きですけどね(笑)。
ただ、それだけで枯れてしまうのはイヤだ、と。
自分の生活もあるし家庭もあるし」

蒼天が言う。

「『自分』が固まったら、絞られてくるものです。
ぼくは、嫌われる戦法を取った。
二十数年前、普通の企業診断士なら5万取るところを10万ですと言って断った。
滋賀では仕事がなくなったが、全国なら10万でも、いくらでもあるんですよ。
そして、売上の一割は勉強代に充てると決めていました。
そうやって、いろいろマスターできました。
それでぼくの名前で仕事がきて、営業してなくても依頼がくるようになった。
10万と枠を決めてやったら、それだけの価値があるのでは? と期待し、相手が決めてくれる。今はもっとたくさんもらっていますが。
自分のペースを守れる量を定めること。
それ以外は、自分のために時間をつかうこと。
きちっとした自分の考えをもつこと。

印象的なのはね、白石さんの社員の話です。
白石さんは夕方5時できちっと仕事をやめはります。
そしたら、社員が夜間の学校に行きだした。
まさに、経営者が環境をつくるんです。職場という環境を。
社長が常に追い込まれていたら、いい環境はつくれません。
社長が心に余裕をもって仕事をすれば、社員もそうなっていく。
口にはしなくても、確実に変わっていきます。
自分自身の立ち位置を考えたときに、自分の考え方が社員全員に伝わっていること。
そこを、冷静に考えないと繰り返しになりますよ」

ここで話を締めるように、蒼天が言った。

「ほんま早く手を打たないと、あとで大変なことになる」

藤崎がうなずいた。「そうですね」

蒼天「正直なぁ・・・心配になってきた」

菖蒲が、藤崎へ訊く。
「補うのは、マンパワーでしかないと思ってますか?」

藤崎
「いえ、それではいけない、ということです。
特定の個人の能力にまかせている現状を分散させないといけない」

菖蒲「それが、簡単ではない、と?」

藤崎「うちはずっと、マンパワーでやってきたから」

菖蒲「その筆頭が、藤崎さんで」

藤崎
「はい。それが踏襲されています。
ぜんぶをパワーでこなしていたのを、これから頼れるのは外部に頼ろうと」

水島
「そろそろ、時間なので」

 

< 白石さんを深く知る 〜 なんだか二人、対照的ですね 〜 >

「年表みたいなのを作ってきました」

白石から、太く黒い枠線で囲まれたA3の表と『白石 説明書』なるA4のテキストが配られた。

「今年で48歳、4人家族で生まれました。
僕、次男ですけど長男なんです。
もともと双子でした。兄にあたる人が死産だったので。
まあ自由奔放に育ててもらって。
保育園は2年保育で、でも、ほとんど行ってないです。
したくないことをさせられるのが苦痛で。
あ、親父にパトラッシュの話をしたら、なにを勘違いしたか秋田犬を買ってきました」

「パ、パトラッシュ?」
「秋田犬って!」

白石の独特の語りに、一同どっと笑う。

「その犬が賢くて、一日じゅう犬と遊んでましたね。
そしたら、小学校にあがったらまったく読み書きができなくて。
文字が読めないから1,2年生では勉強がまったくできなくて苦労しました。
集団行動が苦手で、犬が友達でした」

銀河が「犬の名前は?」と訊くと、「メリー」と白石。

秋田犬のメリー! 再び場がどっと沸く。

「メスだったんで」

白石はひょうひょうと続けた。

「あと、子どものときにゴーカートとオートバイを買ってもらって乗り回してました。
それからメカが好きになって。
僕の父は官僚で。厳格なのになにも言われず育ちました。
そのあと学習塾に行きだして、中学受験だったからね。
勉強が面白くてかなりな進学校を受けた。でも落ちました。
一つランク下のところに行きたくなくて。
地元の中学にいって高校受験でまたチャレンジしました。
そしたら、うちは田舎なので不本意な中学に入った僕を、先生が気を使うんです。
大人が気を使って・・・そっから『暴君編』ですわ。
もともとやんちゃだったから、勉強はちゃんとやるけどキライな先生の授業は全く話を聞かない。
主要科目以外は授業に出ない。
小学校で、受験塾で、とうっぷんたまって、暴れ倒して・・・あと、少林寺拳法ならって、まあ、“ 閉鎖された空間 ”に行ったりして、詳しくは言えないけど。
やんちゃしながらでも常にA判定。
なのに、願書を出した高校から僕の願書が受け付けられなくて。
判定が空欄で、人生間違った!と痛感し、高校のようなものを、まあ、更生施設みたいなところでね」

白石が話すひとつひとつに笑い声が起こる。

「高校の資格がとれるんです。
そこは、喧嘩が強いやつが学級長になるような、学校ですわ。
そこで、300人くらいの頂点にいって。学校で」

ちょ、頂点?! どよめきが絶えない。

「3年で、就職という段になって。
そこは半分が自衛隊にいくようなところでした。
でも僕はなにがしたいかわからず、たまたまテレビで内装屋をみて表具屋にはいった。
住み込みで休みもなく、時間きっちりの仕事をして。
頑張ったらスカイライン買うてやると言われて、スカイラインに乗るための住み込みやったけど、まあキツかったですね。
そこから、クロス屋に転職。
今の嫁さんになる人がそこにいて。その子は、小学校の同級生で。
朱田さんみたいなタイプですわ。面倒見がよくてね。
で、なぜか『わたし付き合ってあげるわ』と。
イヤ、ぼく好きでもないんですけど」

場の全員がどっと笑う。

「結婚しようといわれて23歳で結婚しました。
クロス屋で独立して、その頃に阪神震災がありまして。
ぽっと出の身でも仕事がたくさんあって、なにもかもがうまいこといって、7、8年くらいかな。
30歳のとき、10mくらいのところから落ちて入院になりました。
そこで、いろんな病気も見つかって結局、一年仕事から遠ざかって。
クロス屋できなくなって鉄工所に勤めることにしました。
ひょんなきっかけでうちおいでやと言われてね。
でも、今まで「やったらなんぼ」の世界にいたので、サラリーマンてなんてぬるいんだ!と。やってもやらなくても、そこそこで満足して帰ってる。
イライラして、くすぶりながら勤めてました。
辞めると言ったら受け取りにさせてもらってですね。
それで、仕事を寝ずにやってたら給料制の人らと派閥ができたんです。
給料に差が出てしまって。派閥が原因で、会社解体ということになって。
僕は、こういってはなんですけど守られている温室育ちの方と違って、上に立ちたいと思ってたから『会社買います』と。
折り合った値段で買えたので起業して、そこで消えかけた炎が燃え上がった。
この勉強会に誘われてきたころ、朱田さんに怖いと思われてました。
(隣で朱田が笑う)
でもね、そこで銀河さんに「人を許してあげること」と言われて・・・
物事がバリバリっと割れて、結果的にいい感じになった。
正しいのかどうかはわかないけど、今はモヤモヤしていますね。
今年は何をしよう?と思ってます。
・・・あ。今、同級生の子どもがうちにきてるんですけど、プロボクサーになったんです。
彼、卑屈なところがあったり、中退もあったりして、なんかせえよと。
それで会社に行きながらプロボクサーを目指すことにしたんですね。
うちの会社は辞めてもいいから、ボクシングはやめるな、と言ってました。
こないだね、ライト級でプロ資格とって。(すごい!と歓声があがる)
それがひとつの楽しみになってるかな。

昔、うどん屋にめちゃくちゃ強いヤツがおるという話を聞いたんです。
その頃の僕は、地上で5番目に強いと思っていたからどんなヤツやと思って、例のうどん屋に行ったんです。
そしたらそいつ、辰吉でした。
さすがに見た瞬間、どれくらい強いか見てわかりました。
えー、それくらい修羅の時期をすごしてました」

朱田「映画化しましょう」

銀河「映画化しましょう」

破天荒なストーリーに皆、笑いながらも圧倒されている。

白石
「今年の目標は、4月から週に一回陶芸教室に行くことにしました。
ものをつくることに、精通したいなと。
会社には休みをもらっていこうかと思ってます。
あと、大阪の訓練学校のマシニングの講師としていくことになりました。
以上です」

蒼天が笑いを残したまま、白石に訊く。
「起業して間がないときに会ったのか」

白石
「そうです」

蒼天
「とにかく目立って面白かったわ。
キャリアを積むのは、変な勉強をするよりずっとためになるな」

茶間
「その学校って、甲子園の常連校ですよね?
学力はそんなにだけど、スポーツは強い・・・」

白石がうなずく。
「不良界のオールスターが集まるようなとこです」

一同笑う。

蒼天
「僕ののぞみを言わせてもらえば、今まで偏差値からぐわっと離れたところにずっといたわけで、それをこれからも続けてほしい。
やんちゃになるって意味ではなく、【普通の人にできないこと】をやってほしい。
彼の場合は、ひとつひとつの異質な経験が土台をつくっているから」

白石「あー、母親は山賊の末裔です」

さ、山賊?! どよめきは止まらない。

白石
「だから何も言われなかったんです。
どの店にいっても、ボク、なになにや、と言ったら食わしてもらえる」

紺野「官僚と山賊の末裔が・・・」

朱田「面白すぎて突っ込みどころが・・・」

銀河「秋田犬のメリーちゃん・・・」

水島「えー、いろいろ、なにかあれば質問を・・・」

銀河
「どこから言えばいいか・・・」

「ここで素性をあかしておこうかと」
と、白石が平然と言う。

銀河「めちゃくちゃおもしろかった」

朱田「さっき、『もやもやしている』からの、陶芸とは?」

白石
「社員旅行で島にいったんですけどね。
あと、ちょうど朝ドラもあってて。それで、陶芸かなと」

蒼天「陶芸はいい。ものづくりとして面白い」

朱田「無心になれますよね」

蒼天
「陶芸。かぼちゃ、講師。
やることで、人との関わりにつながっていくのがいいんや」

桜庭が、質問した。
「あの、この場って、どういうものなんですか?
私しばらくお休みしていたのと、さっきの藤崎さんと白石さん、二人の発表がぜんぜん違うので・・・」

蒼天
「自由です。
それぞれが、型をきめないで自由奔放に。
それぞれ自分の発表したいことを発表する。
自分の将来につながっていく内容なら型にはめません。土台作りです」

仕事で途中で退席した藤崎の座っていた場所を見やって、蒼天が言う。

「さっき、藤崎さんに厳しく言ったのは、将来が見えなかったからです。
皆さん置かれた立場がめいめいにありますから、いろんな発表があります。
水島さんも先月やられてね。ま〜あ、かわいそうやったなぁ」

水島
「そんな、まるで他人事みたいに・・(笑)」

蒼天
「憎まれても言わないといけないことは言います。
白石さんの、なにが印象に残ったかって、「300人のトップになった」ってことや。
なんでも、自分がやりたいことのトップや、やっぱりトップにならないと。
とことん尖がって、嫌われるかもしれない。
でも、トップになる。
それはつまり『自分の思い通りの人生を描く』ってことや。
だから楽しくなる。
その楽しさを追求すると2位との差をさらに離すことができる。
それと、トップになって大事なのは驕らないということ。
天狗にならないこと。それが大事や。
300人のトップになったというのは強烈なインパクトです。
誰でもなれるものではない」

水島
「次のプランはどんな感じですか?」

白石
「もっと仕事をスリム化します。
僕のなかで値打ちがないと思ったものは捨てる。
捨てたらなんか入ってくる。
まず会社に自分自身が貢献する、会社につくしたら、今度は地域貢献をめざしたい
桜庭さんのビジネスモデルみたいに、地域に根ざしている仕事がいいなと。
地域貢献をしていくと、自分の仕事に胸をはれる。
誇りに思えるようになる。
まあ、いろいろ衰えてきましたけど」

蒼天
「ひとつ言いたい。
『衰えを感じる』って言うけど、年を取ったと自己診断した瞬間に、人は老いぼれていく。
衰えは自分で感じるものや。
体は最低限キープしてればいい、すると頭がずっと働く。
死ぬまでナンバーワンでいる。それくらいの発想じゃないと」

紫垣が尋ねた。
「この年表で『人・物事をわかろうとする気持ちになる』とあるのは、何があったんですか?」

白石
「従業員に平気で『死ね』とか言うほど尖がってたんです。
そしたら銀河さんが【人を許せる気持ちが大事】と言われて、それがきっかけです。
いつもなら、「わかりました」と言いつつ流すのに、そのときにバラバラに自分が崩れた。
ああ、出来ない人もいる。
そこから、出来る方法をみつけるのが自分の役目なんだ、と。
あれからものすごく変わった。
第二の人生が始まった、ほんまに変わった。
目に見えてわかった」

朱田「銀河さん、えらいもんや」

銀河が照れている。「いえいえ」

水島「緑山さんから、質問や感想はありますか?」

緑山「・・・人は見かけによるものかな、と」

一同笑う。

緑山「もしかしてあの、●●の中学ですか?」

白石「そうです」

緑山
「僕は当時、旅行会社でそこの●●の添乗員をして、眠れない日をすごしました。
もう嫌で嫌で(一同笑う)あの学校だけは担当したくない!と思いましたね。
それと、白石さんはキャリアのある成熟した会社をやってると思っていたので、(年表を見て)意外でした。
先生に誘われて、研究会にはいって急激に成長されたのかな?と。
この研究会は、生き方や在り方重視の会ですけど、銀河さん系の考え方がわたしが苦手としているものなんです。
かたや藤崎さんは論理的なのかなと。創業して20年経ってるし」

緑山のテーブルの向かいで、桜庭が話し出す。

「私はむしろ、白石さんの方向に行きたいんですけどね。
数字が伴っていないので。
確かに、お客さんに恵まれ、通訳さんなど雇って地域貢献してるかもしれませんが、君主はつらい。
自分がどうやっていけるかな?が今の課題です。
これから、白石さんがどうやって地域貢献していくのか気になります」

蒼天「今回から初参加の山吹さん、どうですか?」

山吹
「初参加させてもらって大感激ですわ。
人間のいろんな磨き方があるんやなと。家に帰って清書してきますわ」

菖蒲が、真向かいに座った白石を見てほほえんだ。

「白石さんはいつも、違うオーラをまとっているな・・・と思いながら遠くで見ていましたが、今日は近くで見れてよかったです。
それと、藤崎さんは一生懸命向上させよう、目指そうとしているけど、社員さんをどう育てようとしてるかが伝わらなかった。
「生産性をあげよう」とか。
白石さん、メリーちゃんじゃないけど(笑)、実は優しさがあるんやなと。
一緒にいる人の幸せを常に思っていらっしゃる。
愛に置き換えるひともいるけど、そういうのがこれからの大事なんだろうなと思います」

茶間が感想を言う。
「社員さんも大人だから、言葉にしなくても、社長のやっていることを察知すると思います。
社長がバリバリに働いていたら、無理をさせるかもしれないし、笑顔にもなれない。
白石さんがかぼちゃを育ててたときも、背中で教えてたのかな、と思いました。
鏡だな、と」

「藤崎くんを弁護するとね、彼は、疲れてるんですよ」

蒼天が言った。

「あれほど疲れていたら、実力は出せない。
なんとか手立てをしないと」

白石が蒼天の言葉にうなずいた。

「藤崎さんは真面目だから、優等生の答えを出す。
僕出さないから」

朱田
「白石さんと藤崎さんって、どこか対象的ですねぇ」

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