「脳に自分の能力よりも高い負荷をかけることによって、成長する(と信じる)」
私にとって、百年企業研究会で勉強することは、そういうことだと思っています。
異業種のメンバーの、率直な意見や感想は、自分の偏りや視野の狭さに気づかされます。思いがけない視点からの発言は、小さな進化につながっています。
落ち込みながら、ありがたいと感謝できる。そんな研究会です。
今年は、「文字にする」ということを目標にしています。
「文字にする」ということは、自分と心底向き合うことなのだと、うすうすわかっていたけれども、今年、心から、そのことを実感しています。
考えて考えて考えても、何も出てこない、ということは、考えているつもりになっているだけで、実は「考える」という行為ができていないのかもしれません。
また、かたくなに思い込んでいる何かがあり、「文字にする」というのはどういうことなのかを受け入れられない頭があるのかもしれません。
小さなパン屋を営んでいます。レーズン山食を焼きながら、考えたことを書いてみようと思います。
レーズン山食をスライスするときにいつも自分の思い込みの激しさを思うのです。
レーズンは、蒸し器で蒸します。ふっくらアツアツになったところに、ラム酒をじゅっとかけて、よく混ぜます。冷めていくにつれ、ラム酒の強く甘い香りがレーズンの中に入り込み、そのまま食してもおやつになるほどに、豊かな味になります。
レーズン山食は、山食の生地に、この「ラム酒漬け蒸しレーズン」を混ぜた生地を使用して焼いています。パリっとした耳、やわらかい生地、その中に点在する柔らかいレーズン。
冷ましてから、ブレッドナイフでスライスしていきます。ブロックのまま販売するものもありますが、多くのお客様は、切りにくいからと、スライス済みのものを所望されるのです。
レーズン山食のスライスには、慣れと多少の技術が必要です。かたい、やわらかい、ねっとり。一度にこういう状態のものをスライスしていくのは、やりにくいのです。
スライサーを使用することはできます。しかし、機械でこのレーズン山食をスライスしてしまうと、どうしても、レーズンが飛び散ります。
「ああ、このレーズンはお客様の分のレーズンだったのに」そう、お客様のものになるはずだったレーズンが、刃につき、そして飛び散ってしまうのです。もったいなくて心が痛むのです。
なので、何があっても、レーズン山食は、ブレッドナイフを使用して、手作業でスライスすることにしています。
習得するのは難しかったです。
レーズン山食をたおし、定規をあてて、同じ幅でスライスできるよう、ナイフで軽く目盛りをつけ、端から順にスライスしていきます。まな板と垂直になるよう、慎重に慎重に、息をひそめて刃を前後させます。
1枚切って、確認します。ああ、まっすぐに下に向かっていったつもりなのに、なぜだ。下の方が分厚い。右寄りに刃が入っているのです。私は左手でナイフを使用しているので、左から右へ切り進んでいくのですが、自分がまっすぐだと思ったとおりに進めていくと、必ず最後の1枚が使い物になりません。こうやって何枚無駄にしたことでしょうか(もちろん、私がいただいておりましたが)。
私の左手が考えている「まっすぐ」は、定規の世界からみると、右に寄っているのです。
試行錯誤の末、今やっているのは、「左に向かって、降りていこう」と左手に伝えながらスライスすることです。左手が思っているよりも、少し左寄りに、ナイフを入れていくのです。
そうすると、まっすぐに刃が入り、上下左右同じ厚さのスライスができます。
この方法に行き着いたときに、思いました。
自分の思い込みワールドは、自分で思っているよりも強く、もうすでに、体にしみついていることがいっぱいあるのだ。
まっすぐなつもりでも、ゆがんでいる。
少しゆがませることによって、まっすぐになれる。
やってみればなんでもないことなのだ。何度も失敗をして、あれやこれやと試行錯誤して、自分に足りていないところ、理解できていないところ、に気がつくかどうか、というのが大切なのだと思います。
そこで「文字にする」。
まさしく私にとっての「レーズン山食をまっすぐにスライスすること」と同じなのではなかろうかという気がしてきました。
わかっているつもりで、実感がない。パソコンに向かうと、何も出てこない。
自分の頭の固さにほとほと困り果てる。
自分はもしかしたら、何も深く考えずに生きてきたのではないかという疑念すらわく。
それでも、レーズン山食をまっすぐにスライスできるようになったことを思い返し、今日がだめでも明日、明日がだめでも明後日、無駄にしてしまうパンはたくさんあるかもしれないけれど、いたずらに文字を重ねていく日々が続くのかもしれないけれど、その中から、何かをつかみたいと思います。
2018.10.01
田中店 田中眞理
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